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重たくも、暖かく
#2
しおりを挟む「お~、無事通えることになったんだ。やったじゃん!」
「はい! ありがとうございます!」
明くる日、白希は文樹に近くの塾に通学できるようになったことを伝えた。さっそく体験入学も済ませ、まずは週三回から始めるつもりだ。
バイトに影響が出ないよう、授業は夜に入れている。これからは忙しくなるが、始めるからにはやり通そう、という気概の方が溢れていた。
「お前の場合どんなに時間かかっても当たり前なんだからさ。焦らずゆっくりやれよ」
文樹は、笑顔で話すとそれ以上の笑顔を返してくれる。白希のことも、まるで自分のことのように喜んでくれた。
心細いときに必ず応援してくれる友人の存在は、感謝してもしきれない。
「分かんないところがあったら、時間ある時なら俺も見てやるから。ま~宗一さんがいれば大丈夫そうだけど」
「文樹さん……いいえ、とても心強いです。ありがとうございます」
本当に優しくて、申し訳ないぐらいだ。
ただ彼はこれから就活が控えてるし、貴重な時間を奪うことはできない。むしろなにかあったら、自分が彼を助けたい。
でも俺が文樹さんのお役に立てることなんてあるかな……。
翌週の日曜日。ぼーっと考えながら雑草取りをしていた。機械的に動いていたものの、ある草を抜いた途端ミミズも一緒に出てきて、驚いて後ろに尻もちをついてしまった。
「白希ちゃん、大丈夫!?」
「あはは……大丈夫です。ごめんなさい」
恥ずかしいぐらい盛大に倒れたことで、近くにいたきみ子さんが心配そうに眉を下げた。
今日は彼女とボランティアに参加し、役所近くの遊水池で雑草取りをしている。都会の真ん中にも関わらず、多様な鳥や生き物が棲み、季節ごとの花が見られる。個人的には一番お気に入りの場所だ。
今日は日差しが強いこともあり、帽子をかぶりながら作業していた。
「うん、これぐらいで良いんじゃないかしら。本当にいつもありがとね」
「いえいえ、俺が好きでやってるんですから。むしろご一緒させていただいてありがとうございます。ゴミ袋まとめて持って行きますね」
まとめた三袋はパンパンに膨らんでいた。無我夢中でやっていたけど、確かに中々の量を抜くことができたみたいだ。
体力をつけたいこともあり、力仕事は率先して引き受けた。自分以外参加者はほとんど女性だから、むしろ良い環境だ。
手を洗って戻ると、きみ子さんは冷たい麦茶をくれた。
「はい、水分補給」
「すみません、ありがとうございます」
汗を拭いながら、もらった麦茶を飲む。きみ子さんは笑顔で近くのベンチに座った。
「白希ちゃん、文樹は最近どうかしら? バイトちゃんとやってる?」
「え? ええ、いつも助けていただいてますよ。最近、お会いしてないんですか?」
「そーねえ、二ヶ月ぐらい……学校が忙しいだろうし、私からあんまり連絡するのも……ね」
頬に手をあて、彼女は困ったように笑った。やっぱり、実際はかなり気を遣ってるみたいだ。
「大学生は多忙ですもんね。……でも忙しいからこそ、きみ子さんと話したら文樹さんも安心するんじゃないでしょうか。時々連絡するぐらい、何も心配ありませんよ。家族なんだから」
「ふふふ、ありがとう。優しいわね」
彼女は微笑んでそう言ってくれるけど、本当に優しいのは俺ではなく文樹さんだ。
いつだって誰かの為に動いてると思う。行動力があって、思いやりがあって、周りを笑顔にしてくれる。全て兼ね備えた人だと思う。
「とりあえず息子とはしょっちゅう会ってるから大丈夫よ。でも、そうね……文樹も就職が決まったらひとり暮らししたいって言ってるし、お祝いを考えておかないと」
「ああ! それは大事ですね」
二人で談笑して、その日は終わった。
文樹さんのことだから、就職についてはあまり心配してない、というのが本音だ。それより、気が早いけどなにか御祝い品を贈りたい。
こういう時参考になるのがネットだ。家へ帰ってすぐ、新社会人にふさわしいプレゼントを色々調べた。
非常に興味深いものばかりだったが、コレ!と即決できるものはあまりなかった。
文樹さんは全て持ってそうだし、後は周りの人から貰いそう……。
いっそ宗一さんの真似をして、奮発したお酒でも買ってみる? それならお酒に合うものも選びたいし……でもやっぱり、仕事に役立つ物の方がいいかな。どうしよう。
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