熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
175 / 196
守るべき人

#13

しおりを挟む



長く短い、息を止める時間。
顔を離して確認すると、宗一さんの頬は熱があるように赤く染まっていた。

「私は相当なんだろうけど、白希も自覚がなさそうだ。君も充分、私を甘やかしているよ」
「あはは。そっか。それは確かに知りませんでした」

要は、お互いにベタ惚れのようだ。他所様に見られたらそれなりに恥ずかしい。
二人で顔を見合せ、笑い合う。
こんなささいな日常がどうしようもなく大切で、愛おしい。

もう失いたくない。守りたいのはこの人の笑顔と、この時間だ。

「白希、ちょっとだけ目を瞑って。プレゼントがあるんだ」
「え!? 宗一さんまた……嬉しいけどプレゼント買い過ぎですよ……!!」
「まぁまぁ、今回は見逃してほしいな。私達にとって必要なものだから」

ほら、と急かされ、諦めて瞼を伏せる。
大人しく座って待っていると、左手を取られた。指になにか、ひんやりしたものがはめられる。

「よし、ぴったり。もう目を開けていいよ」

光が戻ってくる。
徐々に開けた視界にうつる、自身の左手。その薬指には、銀色の輝きを放つ指輪がはめられていた。

「宗一さん。これ……」
「うん。待たせてごめん。今度は本当の本当に、結婚指輪だよ」

以前のペアリングは、白希の力によって熱でとけてしまった。それは彼に謝罪し、身につけられないことも受け入れていたのだけど。

新しい……夫婦の証を、再びもらってしまった。

思わず二度見し、宗一の左手にも同じリングがはめられているとこを確認する。

「ううっ……いつもいつもごめんなさい、宗一さん、……ありがとうございます……!」
「あはは、喜んでくれて良かった。だから泣かないで、ね?」
「無理です……嬉し泣きだから……」

乱暴に袖で涙をぬぐうと、宗一さんは苦笑しながらタオルを持ってきてくれた。
以前自分が溶かしてしまったリングも、彼が大切に仕舞っておいてくれてることは知っている。それだってずっと申し訳ないと思っていたのに。彼はどんな時も、願いすらしなかったことを先回りして叶えてくれる。

これだから、やっぱり何が起きたって幸せなのだと思える。

「本当に、ありがとうございます。宗一さん」

左手の手のひらを合わせて、もう一度唇を重ねた。
まだ消えない傷も、すぐに高まる熱も、当分は変わらないけど……全然怖くない。

俺は誰に対しても、胸を張って言えるだろう。

この人が好きだ。愛してる。

記憶の中で生きる“彼女”と、心の中で生きる“彼”。二人の為にも、一日一日を大切に過ごしていく。

「“君”は覚えてないかもしれないけど……どんな白希でも、私の妻だ。永遠に愛することを誓うよ」

宗一さんは目を眇めて、俺の手をとった。
いつかの夜と同じく、シーツが軽く宙に浮かぶ。
この小さな空間が、俺にとっての居場所。彼がつくってくれる、優しいせかい。

白希はシャツを来て床に足を下ろし、紅の羽織りを持ってきた。

大切な人の意志は、自分の中に受け継がれている。失うことはないし、俺も誰かに伝えていきたい。
だから今は、大好きな人に笑ってほしい。

「お。嬉しいね、白希からお披露目してくれるなんて」
「ええ。宗一さんが、俺の舞が好きだと言ってくれたので」

もちろん最高に恥ずかしいけど、彼の喜ぶ顔が見たいんだ。
こんな自分を一から百まで愛してくれた彼の為に。

「白希」

何度交わしたか分からない視線。
言葉。

飽くことなく、褪せることなく、俺の中に馴染んでいく。
たった一人の観客は、俺の世界を象る人。

「これからも、私の最愛の妻として。よろしく」

舞い落ちる木の葉のように手のひらを返し、入れ込みをして構える。
今は嬉しさの方が勝ってるから、ちょっと浮ついた舞になってしまうかもしれないけど。

「はい。精一杯やりますので……これからも、宜しくお願いします!」

彼に向かって手を翳し、羽織をとる。重力なんて感じさせない最高の舞台で、鮮やかな紅が靡いた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

処理中です...