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守るべき人
#10
しおりを挟む「人間ってめんどくさいよなー」
大我は豪快に仰け反り、ため息をつく。しかし白希に見つめられていることに気が付き、首を傾げた。
「ん? 何?」
「いえ。……それって、誰もが思うことですか?」
冗談は感じられない、妙に真剣な声と表情だった。
深い意味を込めて言ったわけじゃない。言わば軽い愚痴だ。でも、それを説明するのも何か違うような……。
色々考えた末、大我は吹き出した。
「さあね。皆思ってんじゃないの?」
口をつけてないコーヒーを白希に手渡し、踵を返す。白希が財布を取り出そうとした為、大我は力ずくで制止した。
「……お前と宗一さんは、やっと安心してやってけそうだよな」
道源がこの間の暴行の証拠をおさえている為、もう村の追手が白希に手を出すことはないだろう。
東京に残ったとしても、他の地に移り住んだとしても……これからは神経質に逃げ隠れする必要はなくなる。
「俺は文樹と揉めたからな~。今はあいつの機嫌とるので頭いっぱいなんだ」
「そうなんですか? もしかして、それも俺のせい……」
「いやいや、そうじゃなくて……俺が悪い。村や力のことも、中途半端に教えちまってたから」
大我の言葉を聞き、白希は思料する。文樹が最後まで警察に頼らず、自分や宗一の意思を尊重してくれたのは、大我の影響が大きかったようだ。
するとやっぱり、この二人は……。
「とにかく怪我治るまでのんびりしてろよ。じゃあな」
「あ……大我さん。ありがとうございます!」
大我は最後に白希の頭に手を乗せ、店内へ戻っていった。
テラスに取り残された白希は、コーヒーをひと口飲み、頬に貼っていた湿布を剥がした。
ほんの少しの間に、たくさんのことが起きた。
環境も関係も、目まぐるしい速さで変わっていく。その変化についていけるか不安になるけど、無理に急ぐ必要はないのかもしれない。
歩みを遅めるからこそ気付けることも、きっとあるから。
数ヶ月ぶりに飲んだブラックは、以前ほど苦く感じなかった。
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