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守るべき人
#9
しおりを挟む静かに顔を上げ、深い青みを帯びた瞳と目が合う。色とりどりの木の葉が舞い、自分達の足元に落ちた。
「そっか。ま、俺らの力自体普通じゃないし……何が起きても不思議じゃないのかもな」
大我は妙に納得してる自分に笑いつつ、脚を伸ばした。
以前の不安定で尖った白希も、個人的には悪くなかったのだが。それを言ったら彼はまた気にしてしまいそうなので、黙っておいた。
「ていうか、俺のこと恨んでないの? お前が襲われること全部知ってて、止めもしなかったのに」
「それは道源さんの意志でしょう? 俺は何とも思ってません。人格も無事に戻ったし」
白希は前で両手を組み、眉を下げた。
「……憎んだり恨んだりするのって、意外と体力いりますよね。昔はそんな元気があったかもしれないけど、もう残ってないな。今を生きる為には希望を持たないとやってられないから」
「……」
逃避に近いのかもしれない。
だが全てを否定的に捉えてるわけじゃない。あくまで現実を受け入れ、彼は前に進もうとしている。
弱い弱いと思ってたけど、実はそれなりに強いのかもしれない。……この青年は。
「そ。まぁいいや。元気そうで安心した」
大我は瞼を伏せ、口端を上げた。
「あ、ちなみに俺と風呂入ってたことは宗一さんに言ったの?」
「え!? あ、それは……前の俺が、うっかり口を滑らして」
言ってしまったらしい。白希は憐れなほど顔を真っ赤にし、しどろもどろに俯いた。
「わー、マジか。俺絶対宗一さんに恨まれてんじゃん。次会ったとき殺されそう」
「いや、そんなこと……! あれは俺がいけなかったんです」
必死に手を振り、白希は俯いた。
「とにかく、ごめんなさい」
「ははっ、平気だから謝らないでよ。……そもそも俺の方がずっと酷いことしてる。本当にごめん」
そこで初めて、大我は白希に頭を下げた。
「俺多分、お前が羨ましかったんだ。……少なくとも今は自由で、幸せそうに生きてるお前が」
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びくびくしながら高い位置を見上げて、下を見ることで安心した。村を出たらそんなことなくなると思ったのに。
「兄さんもお前に少なからず嫉妬してるんだよ。あの人は宗一さんのことが好きで……でも宗一さんは、ずっと前からお前のことが好きだった。だから俺達は、お前が何でも持ってるように勘違いした」
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贅沢な悩みだと思っていたけど、それまで苦しんで生きてきた人間にとっては、不意な幸せは不安そのものなのだ。手に入れられるはずがない。手に入れてはいけない。そんな牢獄に囚われている。
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