熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
167 / 196
守るべき人

#5

しおりを挟む




ポケットに手を突っ込み、道源は宗一の方に向いた。
「久しぶり。やっと会えたね、宗一」
「あぁ。私から会いに行くつもりだったのに、悪いな」
宗一が皮肉を込めて睨めつけると、道源は心底嬉しそうに頷いた。

「宗一は照れ屋だから仕方ないね。お姫様からすぐに目を離しちゃうし、ナイトには向いてないんじゃないかな」

地鳴りのような音が聞こえた後、男達が一斉に倒れ、跪いた。どうやら上から見えない重力をかけられている。
宗一はにこやかに、しかしかつてなく低い声で答える。

「おっと……力をかける場所を間違えた」

踵を返し、獲物を狩るような鋭い視線を道源に向ける。大我は底知れない重圧を感じ、無意識に後ろへ下がった。
こわ……。

ここにいたら道源のついでとして、一緒に巻き添えにされそうだ。さりげなく後ろへ下がって離れようとしたが、兄に呼び止められてしまう。
「大我。まだここにいなさい」
「え。は、はい……」
残念ながら逃がしてくれないらしい。大我はため息を飲み込んだ。
そもそも兄がここへ来るとは思わなかった。村人達の動向を教えてくれたのは彼だが、いつだって高みの見物を楽しんでいるから。

それほどまでに、白希が心配だったか……今度こそ宗一が出てくると確信していたのだろう。
兄は宗一を好いている。それは恋愛感情とは少し異なっていたが、お気に入りには間違いない。
村を出てまで追いかけるぐらいだから、尋常ではない執着心だ。なのに核心的なことは言わないし、しない。そんな兄が心底理解できない。

道源は少し仰け反り、それから宗一に抱えられてる白希に声を掛けた。
「白希、久しぶり。怪我大丈夫かい?」
「あ。はい……」
「良かった。どうする? 僕のところに帰ってくる?」
眼鏡を軽く持ち上げ、微笑む。同時に、宗一は厳しい表情を浮かべた。

「……」

白希は困ったように視線を泳がしていたが、やがて意を決したように答えた。

「……いいえ」
「そっ、か。オーケー、分かった」

良いんだ……。
大我は心の中で突っ込んだが、兄の考えてる事は分からない。白希が襲われたこの事件すら、なにかの余興として楽しんでいるだけかもしれない。そう思うと、飄々としている彼が本当に恐ろしかった。
と言っても、俺からしたら宗一さんもめちゃくちゃ恐ろしいけど……。

未だ強い重圧を男達にかけている宗一は、お世辞にも好青年とは言い難い。少しでも機嫌を損ねれば、次の瞬間には押し潰されてそうだ。
村で一番強大な力を持っているのは彼だ。自分も兄も、白希ですらも、本気を出した彼には適わない。村の男達は宗一のことをまるで気にしていなかったようだが、愚かにも程がある。

道源が所有しているのは硬度操作という、大我以上に地味な力だ。やはり大きさも派手さも、宗一の重力操作が一番だろう。
肩を落としていると、道源はポケットからなにか取り出し、宗一の胸ポケットに差し込んだ。

「これを返しに来たんだよ。宗一ってば、いきなり白希をさらっちゃうんだから」

それは白希のスマホだった。
「ありがとう。……最初にさらったのはそっちだけど」
「あはは、だから誘拐じゃなくて保護だって」
可笑しそうに答え、道源は男達の手前に屈んだ。
「上からすみませんね。ちなみに皆さん、傷害で警察に引き渡されるより、地元で平和に暮らした方がずっと良いと思いません?」
「は……?」
「貴方達がしたことは、僕も別のビルから動画で撮影してました。これを使えば、貴方達は地元からも厄介者扱いされて、どこにも帰れなくなりますよ」
道源は自身のスマホを取り出し、動けない彼らに向けて、白希を無理やり拉致する動画を再生した。
「村の言い伝えなんて、この社会においては妄言でしかない。貴方達は無害な青年を暴行した、ただただ頭のおかしい人間としか見られませんよ」
「……っ!!」
道源の言う通り、そんな言い伝えを本気で信じているのは村の者だけだ。ひとたび外に出れば、何を馬鹿なことを、と一笑されるだろう。

しかしそんな言い伝えを本気で信じてしまうほど、自分達の力は強大で、非現実的だ。宗一は密かに眉を寄せた。

 「白希はほとんど力をコントロールできてると、この宗一が太鼓判を押してるんですから。安心して村にお帰りください。むしろここに留まる方が祟りがふりかかりますよ~。ちなみに、今まさに貴方達にふりかかってますが」

道源はおどけて言ったが、宗一はそれに乗じて重力を上げた。耐え兼ねた男のひとりが、とうとう音を上げた。

「わかった!もう白希には関わらない。約束するから頼む、助けてくれ!」

それを皮切りに、残された二人も宗一に降参の意思を示した。白希にした仕打ちを思えば生温いぐらいだが……不安そうにしている白希の手前、これ以上続けるのは悪影響でしかない。大袈裟にため息をつき、宗一は力を解いた。

「宗一が優しくて良かったですね。でも二度目はないでしょうから……皆さん、どうぞお元気で」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...