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失くしもの
#16
しおりを挟む一体何をやってるんだろう。独りじゃ何をしても虚しいなんて……そんなの、物心ついた時から変わってないはずなのに。
苦しくて仕方ない。熱い。
でも熱はないようだ。体温計を勝手に借りたが、平熱で顔も赤くなかった。
でも早く夜になってほしい。三回目の電話で、宗一に呼びかけそうになった。
早く帰ってきてほしい。
しかしそれを言う前に、電話口から珍しく慌てた声が聞こえた。
『白希、急にすまない。もしかしたら……だけど、私が帰る前に人が家に来るかもしれない』
少々切羽詰まった声だ。空も薄暗くなってきた為部屋の明かりを点け、カーテンを閉める。
「人? お客様ですか? 私が出ていいんですか?」
『いや……その、君が良いのなら。でも、できれば私が先に会いたいと思ってるんだけど』
彼にしてはやけに歯切れが悪い。こちらを気遣っているのが見え見えだ。
「別に大丈夫ですよ……とりあえず、その人と私の以前の関係だけ教えてください」
薄手のガウンを羽織り、受話器を持ったままソファへ戻る。返事を待っていると、数拍置いて低い声が聞こえた。
『君の友達だよ。君のことをずっと心配してたから、安心させてあげたくてね。……君が家にいると伝えたら、すぐに会わせてほしいと言われて、返事を言う前に切られてしまった』
「それはまた」
忙しい人だ。
そう答えようとした瞬間、家の中にインターホンの音が鳴り響いた。
本当に来たみたいだ。なんてタイミングの良い。
「すみません、いらっしゃったみたいなんで切ります」
『本当? あ! 出る前にモニターで誰が来たか確認してから』
「え?」
彼はまだ喋ってる途中だったが、切のボタンを押してしまった。申し訳ないが仕方ない。
玄関まで小走りで向かい、内側の鍵を開ける。ドアを開けると、自分と同い年ぐらいの青年が立っていた。
彼が……以前の、自分の友人だろうか。
第一声をどうしようか考えていたが、それより先に強い力で抱き着かれた。
「白希! 良かった……体は大丈夫か? 連絡とれないから本当に心配したんだぞ」
「すっ……すみません」
動揺のあまり声が上擦る。抱きつくほど親しい仲なのか。それとも友人ならこれぐらい普通なのか……。
そもそも普通が分からない為硬直してると、彼はゆっくり離れた。
「宗一さんから、お前が家に戻ってきたって電話あってさ。申し訳ないんだけど、居ても立ってもいられなくて走ってきた。一体今までどこにいたんだよ」
「えっと……すみません、色々ありまして」
下手な嘘はつけない。それならまだ、黙っていた方がマシだろう。
「貴方なら何となく察してらっしゃると思うんですけど……」
適当過ぎるが、彼との信頼関係に賭けてどうとでもとれる台詞を吐いた。すると彼はハッとして、声を潜めた。
「やっぱり、お前の故郷が絡んでるのか」
……!
予想外の返答に息を飲む。
結婚生活が嫌で家出してたとか、適当な理由と結び合わせようと思っていたのに。眼前の青年の言葉は核心をついていた。
この青年は白希の出身地を知っている。
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