熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
157 / 196
失くしもの

#15

しおりを挟む




白希は瞬きした。
「何で……そこまで」
もう目は冴えている。純粋な疑問をぶつけると、宗一は清々しいほどはっきり答えた。

「愛してるから結婚したんだ。何も不思議なことなんてないよ」

言ってる意味は分かる。
でもその心情までは分からない。

「分からない。……分かりたくない」

白希は視線を逸らした。
身体は快感と倦怠感に打ちのめされているのに、疼いている。
表面ではなく、触れられない内側が。

「……っ」

滑稽だと思ったものの、腰を浮かして後ろに手を伸ばした。
普段は決して触らない、奥まった部分の小さな窪み。そこに指を這わせる。
どうしてこんな場所が疼くのか。分からないけど、彼と目が合った途端に全てがどうでもよくなった。

きっと、彼は自分が欲しいと言ったものは全て与えてくれる。
それに乗っかってしまいたい。

「うっ……」

気持ち悪い。
突如、猛烈な吐き気に襲われ口を手で塞いだ。
「白希……!」
異変に気付いた宗一に、身体を支えられる。

“また”だ。
いつだって、自分を守れるのは自分だけなのに……どうして最後は他人に縋りついてしまうんだろう。




現実から逃げようとした。

楽しかった出来事が霞んでしまうぐらい、辛いことがあったからだ。生を放棄したわけじゃないけど、弱かった自分はこうすることでしか自分を守れなかった。

でもそろそろ“出てきて”くれてもいいのに────。


「白希? 良かった、私が分かるかい?」


痛いほど眩い白が飛び込んでくる。
白希は寝室のベッドの上で、天井を見上げていた。その端には、心配そうにこちらを見下ろす宗一がいる。
「はぁ~、心配したよ。また突然失神するから」
宗一は心底安堵した様子で、傍に腰を下ろした。だが冷静に考えて、原因は彼にあると思う。

「朝から変なことをたくさんされて、限界突破しただけです」
「あぁ、それはそうだ。ごめんね……つい昔の感覚に戻っちゃって」

彼は申し訳なさそうに手を合わせる。実際悪気はないんだろうけど、事ある毎に以前の自分の存在がチラつく。

起き上がりはしたが、ベッドに座ったまま時計を見た。
恐らく、彼は仕事に行かなきゃいけない時間だろう。いつまでもここに留まらせては駄目だ。
「大人しく寝てますので、出掛けてください」
「本当に大丈夫? やっぱり心配になってきた……私も今日は有給を使おうか」
「大丈夫ですよ。私の身体は意外と強いみたいだし」
そのはずだ。ろくに運動しなくても、医者いらずで生活していたんだから。

煮え切らない様子の宗一をわざと冷たくあしらうと、熟考の末長いため息をついていた。
 
「………………分かった。でも三時間ごとに家に電話するから、必ず出るように。いいね?」
「……わかりました」

三時間って、寝かす気ないな。
心の中でのみツッコみ、大人しく頷いた。

日中、出勤後の宗一は本当に三時間ごとに電話をかけてきた。
嫌がらせに近い。せっかくベッドで寝ていても受話器を取るために起き上がるので、結局リビングのソファで過ごした。
勝手に外出しないか監視も兼ねてるんだろうけど、こんな状態で彼も大丈夫なんだろうか。仕事に支障が出ていたら大問題だ。

心配してるわけじゃない。別に彼が仕事で大失敗しようか構わないけど……。
ふらふらしながら水を飲み、用意されていた食事を食べる。でもやはり食欲がわかず、スープだけでいっぱいになってしまった。
この玉ねぎのスープも美味しいけど、何だか上手く飲み込めない。  



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

処理中です...