熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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頬凍つる

#4

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大我は背中を向けたまま、窓の外を見つめた。
「道源様……ていうか俺の兄は、好きな人を追ってこっちに出てきた。俺も、東京の大学に行きたかったから軽率についてきちゃったけど……半分後悔してる」
「もう半分、後悔してないなら良いじゃないですか」
「お前ほんと良い性格になったよな」
「メリットが多い方をとるのは当然ですよ。それで、後悔してない半分は? 大学生活が充実してるからですか?」
横向きになって問いかけると、彼は意外にもバツが悪そうに視線を逸らした。

「……勉強とかバイトじゃない」
「と言うと?」
「食らいつくなぁ。……好きな奴ができたんだ」

薄闇の中でも、大我の頬が赤くなったことが分かった。
白希は何度か瞬きする。
「同じ大学の……女性じゃないですよね? 男性でしょ?」
「ほんっと、いやに洞察力高いな。そうだよ、同級生の男。俺友達作る気なかったから、上っ面だけ良くして適当にやり過ごそうとしてたんだけど。……そいつは、しつこいぐらい世話焼いてきてさ。ここに帰るのがしんどいときは、そいつの家に泊まってる。っていうか、もう寝たこともあるんだけど」
「そうだったんですね。おめでとうございます」
充分東京に留まる理由になる。
それにしても、彼をここまで熱中させる相手とはどんな青年だろう。ちょっとお目にかかってみたい。

「てなわけだから、俺も村に帰るわけにはいかないんだ。白希も、とりあえず兄さんの元にいる方がいいよ。村の奴らは兄さんが牽制してくれるし……必要なものは全て用意してくれるだろうから」

自由行動ができない以外に、不自由はない。
だが自分が欲しいものは、物ではない。
「そうですね」
けど大我を安心させる為に、同意の言葉を吐いた。
「貴方の恋愛も応援してますよ」
「はっ、あんがと。……にしても、記憶って脆いものなんだな。俺と初めて会った時のこととか、何も覚えてないんだもんな?」
大我はそこで初めて振り返り、微笑を浮かべた。
自身の膝に頬杖をつき、興味深そうに白希の頬を押す。

「申し訳ないけど、全く覚えてません。……初めて会った時って、どこで?」
「図書館のカフェ。俺そこでバイトしててさ。白希が東京に来てることは知ってたから、軽く運命感じちゃったね。力を持つ人間って、どこに行ってもこうやって出逢っちゃうのか……って」

彼は感慨深そうに瞼を伏せる。
「あの時の白希は可愛かったなぁ。アタフタして、泣きそうな顔しちゃって~。女の子みたいで、守ってあげたい感じだった。今は目つきも言うこともキツいからな」
「それはどうもすみませんね」
彼曰く、以前の自分は酷く女々しく、気弱だったようだ。全くもって嘆かわしい。
大人しくしていた方が良い時もあるが、損することも多い。親に意見できず、納屋に閉じ込められたときのように……弱い姿勢を見せると、相手はどこまでもつけ上がるものだ。

反吐が出る。

「じゃ、もう寝なよ。おやすみ」

頭から目元へ、大我の手のひらが流れる。
その温もりに安堵しながら、眠りについた。

以前も……こんな風に、誰かに寄り添ってもらっていたことがある。それはいつだったのか、誰だったのかも分からない。その人は今、誰を想って寝ているのだろう。




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