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硝子玉
#19
しおりを挟む宗一からもらった指輪は、既にいびつに曲がってしまっている。元通りにはできない。
「くっ……」
怖い。
自分の中に燻る、この強過ぎる怒りをどう抑え込めばいいのか。
いや、抑える必要なんてない。彼らには生半可な脅しは効かない。そんなことでは何度でも追ってくるだろう。ここで、二度と自分に会おうなんて思えないほど……痛みを与えてやれば。
……っ。
だけど、それは……それをしたら、俺は本当に彼らの思う“化け物”になる。
これ以上怒りに任せて力を使ったら、悲しむのは自分じゃない。……宗一さんだ。
「もう……どうか、許してください。お願いします……っ」
ぬかるんだ地面に両手をつき、彼らに頭を下げる。
自分が息をしていることが、彼らの平穏を脅かしていることは分かる。
それでも何度だって言う。
幸せになりたいんじゃない。宗一さんと一緒にいたいんだ。
だからどうか、俺が“生きる”ことを許してほしい。
それが叶わないなら、もう……行き着く場所はひとつだ。
「……これは仕来りなんだ。白希」
足音が近付いてくる。頭のすぐ目の前で止まった。
……終わりの音が聞こえるみたいだ。真っ暗闇に落ちる、カウントダウン。
「そんなに村に帰りたくないなら仕方ない。……ここでお別れだ」
彼がポケットからなにかを取り出した。薄暗い林の中で鋭利な何かが光った。
宗一さん……。
ごめんなさい。震える手のひらを握り締め、瞼を伏せた。
「あーあー……やり過ぎやり過ぎ。大体誰が殺せなんて言いました?」
……?
まだ若い、この場にそぐわない声が飛び込んできた。
でもこの声は聞いたことがある。頭が上げられないため姿は見えないが、ぼろぼろの記憶が鮮明になっていく。
「道源さんの指示は、あくまで白希君の保護なんですよ」
「だが……今こいつは力を乱用して」
「それは貴方達が乱暴したからでしょ。正当防衛をして当然。ていうかこれ、ほとんど力をコントロールできてんじゃないですか?」
また顔のすぐ横に靴が見えた。白いスニーカー。それにカーキのズボン。
これは……。
「予想通り、彼は道源様のところに連れてきますよ。なので今日のところは村にお帰りください」
「お前……っ」
息がしづらい。寒いのに熱い。
頭はもうまともに働いてない。それでもただひとつ、思い出していたことがあった。
────白希。もう、図書館には行っちゃいけないよ。
「まさか、白希を生かすつもりじゃないだろうな。……大我」
指先が跳ねる。信じられないし、信じたくない。でもこれが現実だ。
いつだって、優しいわけがない。罪にまみれた自分にはむしろ相応しい……。
「だから、それを決めるのは俺じゃないんですって。……ね、白希君。君の新しいご主人様のところに帰ろっか」
顎を掴まれ、無理やり顔を上げさせられる。全身が痛んで動けないけど、目だけはしっかり見開いた。
「大我さん……貴方……春日美の出身だったんですか……?」
「そう。俺は羽澤大我。改めてよろしく」
彼は子どものように邪気のない顔で笑った。
そしてぐにゃぐにゃにとけた指輪を拾い上げ、自分のポケットに仕舞った。
「ちょっとだけでも幸せな夢が見られて良かったね。これからは、もう少し現実を見てもらうよ。……俺達の家で」
ようやく繋ぎ合わせたパズルがばらばらに落ちる。
「…………っ」
息ができなくなる。喉から熱いものが溢れて、大我さんの顔も見えなくなった。
一面の闇。
あの日からずっと俺を取り巻いていた、一番の理解者。またここに戻ることになるなんて。
それならもう、……方が良かった。
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