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硝子玉
#18
しおりを挟む「やっぱり水崎の息子か。あいつの世話になってるみたいだが、心の底から信用していいのか? 最後に信頼できるのは同じ故郷に留まる人間だ。外に出て行く奴らなんて皆自分のことが一番で、簡単に他人を裏切る。お前は世間知らずだから分からないんだよ」
「……」
言い返せないんじゃない。
言い返さない。俺の言葉なんて、この人達には何も響かないだろう。
「俺を殺しに来たんですか」
「おいおい、何て物騒なことを言うんだ! 痛いことなんてする気はないよ。俺達はただお前を迎えに来ただけだ。皆待ってる、村に帰ろう?」
「も……申し訳ありませんが、お断りします。貴方達には迷惑はかけません。だからどうか、このまま静かに過ごさせてもらえませんか」
一歩後ろに引き、頭を深く下げる。
彼らの事情も分かる。それでも引けない……この願いは、手放すことはできない。
宗一さんといることが、生まれてきた意味だったんだ。
だけどやっぱり、そんな想いは彼らには届かない。
「そうしてやりたいんだけどな……力がコントロールできるようになるまで、村にいよう? 心配しなくても、俺らと羽澤様が見てやるから……」
彼の手がサコッシュの紐に触れる。しかし指先に伝わる熱に驚き、彼は後ずさった。
「熱……っ! 白希、お前……!」
「二十歳になるまでに力を支配できない人間がいたら、村に災いが訪れるそうですが……今はどうですか。何事もなく、皆さん平和に過ごしているはずです。俺は俺で、力を扱えるように訓練もしてます。これではいけませんか?」
雨が段々と強くなる。体温が奪われる寒さの中、後ろで控えていた男のひとりが殴りかかってきた。
「……っ」
何とかかわせたものの、無闇に力を使うわけにもいかない。加減を間違えたら、それこそ大怪我じゃ済まない。
かと言って抵抗せずに逃げ切ることができるか? 必死に考えながら後ずさった時、後ろに回っていた男に茂みへと突き飛ばされた。
林の中に引きずり込まれ、押し倒される。
「はっ。しかし様変わりしたな。昔は女みたいな顔した子どもだったのに」
「ふ……まぁ確かに、随分立派な恰好にはなったが。なあ白希、そんなに今の生活はイイか? ええ?」
「うあっ!」
腹の上に蹴りを落とされ、激痛に呻く。はずみに口の中を噛み、鉄の匂いが広がった。
「こっちはお前の処分にずっ……と頭を悩ませてたっていうのに。水崎家に贔屓にされたぐらいで簡単に村から出ていかれちゃあ困るんだよ。お前の後始末をこの目で見届けるまでは、俺達は安心して眠れないんだからな!」
髪を掴まれ、地面に叩きつけられる。雨と泥の匂いが混ざり合い、吐き気を覚えた。それでも何とか唇を噛み締め、膝を地面に立てる。
文樹さんに申し訳ないな。後で絶対連絡するって言ったのに。
ぼやけた視界と思考を携えたまま、頭上から降りかかる罵声を聞き届ける。力を振り絞って立ち上がろうとした時、不意に左手を掴まれた。
「おい、この指輪……まさかお前、本当に宗一と結婚したのか?」
薬指の指輪に気付かれ、狼狽える。彼らが自分と宗一さんとの関係を知らなかったことは僥倖だったが……。
「ち……違います。宗一さんは、関係ない……っ」
「ふうん? じゃあただの飾りか。チャラつきやがって」
男のひとりは鼻で笑うと、指輪を外そうとした。
「やめ……っ」
その瞬間、自分の中でなにかが砕け散った。かろうじて保っていた理性や、正義……みたいな、────なにか。
「うあああっ!」
指輪がすり抜ける。そして男の手の中に収まったが、その直後に彼は絶叫した。
「熱、い……っ!! ああ……っ!!」
「どうした!?」
片手をおさえてその場に蹲る男に、傍にいた男性が駆け寄る。彼の足元に落ちた指輪は変形していた。いや、正確に言うなら溶けていた。
指輪をとった男の手のひらは、一部分のみ真っ赤に爛れてしまっている。自分がやったのだと頭では分かっているが、だからといってどうする事もできなかった。
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