熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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硝子玉

#1

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相変わらずだけど、良かった。……迷惑じゃなかったみたい。

「宗一さんのダイアリー帳は黒で、俺が使ってるのは白なんです。色違いですね」
「お揃いかぁ。尚さら嬉しいな」

彼はページを開きながら、真剣に何を書こうか考え出した。その日あったことを書くだけでも良いんだろうけど、テーマを決めると幅が広がる。それも日記の醍醐味のひとつだ。
個人的には、共通の日課ができたことも嬉しい。

「……さっきは俺のことは書かなくていいって言いましたけど。よく考えたら、俺は宗一さんのことばかり書いてます」
「ええ、ほんと? ちょっとだけ読まして」
「すみません、それはちょっと……」

赤面しながら首を横に振る。日記の内容は、昔彼に書いたラブレターなみに恥ずかしい。

「どんなささいなことも覚えていたいし、嬉しかった言葉は忘れたくない。記憶は、宝物と一緒ですね」
「……そうだね」

宗一さんはゆっくり頷き、ダイアリー帳をテーブルに置いた。
「私も、君との思い出をひとつひとつ拾っていこう。今までは駆け足過ぎて、来た道を振り返ることもしなかったから」
「でも、宗一さんらしくて良いと思います」
「はは、ありがとう。……私は、白希のこまやかさが好きだ」
俺は単に心配性且つ、神経質なだけだと思う。でも宗一さんは俺の長所だと、力強く言ってくれた。
「よく考えたら、白希からの初めてのプレゼントだ」
「すみません、頂いたばかりで……」
指輪やバッグ、洋服と、宗一さんからはプレゼントらしいものをたくさん頂いている。
でも俺の場合、お金もないしセンスもない。常に良いものを身につけてる彼に下手なものは送れないと思って、尚さら遠慮してしまった。

項垂れて謝ると、また頭を撫でられた。
「私がプレゼントしたいだけだから気にしないで。それより本当に嬉しいよ。ありがとう」
「……こちらこそ!」
彼の離れていく手を握り、その甲にキスする。せめてこの気持ちだけは、取りこぼさずに渡していきたい。

毎日が幸せ。でも同じ一日なんて存在しなくて、日々新しいことを学んでいく。
宗一さんから教わった新しい感情を育む。時に熱く、時に冷めゆく自分への期待も、捨てることは決してしない。
もう少し自分を信じてもいいんじゃないか、と……彼にずっと、背中を押してもらっているから。


だけど、環境が変わるのはいつも唐突だ。


バイトが終わり、家路につく。マンション前でポケットの中にある鍵を探っていた時、ふと後ろから声を掛けられた。

「白希……か?」

確かめるような声。誰かと思って振り返ったとき、時間が止まった。指から滑った鍵が足元に落ちたけど、そんなことを気にする余裕はなかった。

「兄さん……」

声も顔も、自分が知る青年とは別人だ。それでも微かに残る面影が、疑念を確信に変える。

“外”に出た以上、同じ毎日なんて存在しない。当たり前のことなのに、忘れていた。





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