熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
108 / 196
夫婦の契り

#16

しおりを挟む



誰かと話す度、自分の外殻が水面から姿を現す。
世間知らずな自分。自信のない自分。でも、常に周りに助けられている自分。
俺一人の力でなにかを成したことなんてひとつもない。いつだって宗一さんや、周りの優しい人達に守られ、支えられて生きている。

これではいけない。
変わりたい。そう思うほど雁字搦めになって、身動きがとりづらくなる。

誰もが当たり前に生きてるのに、俺は未だに“生かされてる”としか思えない。 

「あっ!」

サコッシュを掛け直して歩き出そうとした時、前から歩いてきた小さな男の子が段差に躓き、豪快に転んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る。見ると、彼は膝を擦りむいてしまっていた。可哀想に、とても痛そうだ。
「た、立てますか?」
「うん」
少し瞳が揺らいでいたが、手を取って起こすと、男の子は掌についた土をはたいて落とした。
泣かなかったのはとても偉い。でも子どもと関わった経験が少ない為、身を案じる以外の言葉が全く出てこない。
うぅ、大人なのに。
自分の対応の下手さに絶望しつつ、ポケットから絆創膏を取り出した。
「えっと、家に帰ったら水で洗って、これは貼り替えてくださいね」
宗一さんがくれた絆創膏はなにかと活躍してくれてる。男の子の膝に貼ってあげると、彼はようやく笑顔を見せてくれた。

「お兄ちゃん、ありがとー!」

手を振り、また走り去って行った。
こちらも手を振り返し、ゆっくり立ち上がる。
転んでもまたすぐ走り出せるところは、強くて羨ましい。

子どもとはそういうものなのかもしれない。痛い思いや苦い思いをしても、同じことを繰り返して大人に怒られる。

そういえば木に登ったらいけないって言われてたのに、小さい頃桑の実が食べたくて、よく裏庭の木に登っていた。
何度か落ちて擦りむいて、その度に兄に怒られたけど、それより甘いおやつが食べたくて懲りなかった。
やりたい事のためならリスクなんて考えない。子どもは存外強く、逞しい。

自分にもそんな時期があったんだ。思い出して少し可笑しくなる。宗一さんに言ったら、彼も笑ってくれるかな。
懐かしさに目を眇めて、あたたかい家に向かった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...