熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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夫婦の契り

#13

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青年は文樹さんの頬をつつきながら尋ねる。
文樹さんはそれに対しなにか喋ってるけど、ろれつも回ってない為、代わりに答えた。
「バイトの飲み会の帰りなんですけど、気持ち悪くなってしまったみたいで……トイレにお連れしようと思ってたところなんです」
「ほんと? それでこんな顔真っ赤になってるんだ」
彼は長身を縮めるように前に屈み、文樹さんの火照った顔を覗き込んだ。
ちょっと距離が近いと思ったけど、仲が良いんだろう。見守ってると、彼は俺の肩から文樹さんを下ろし、代わりに腰を支えてくれた。

「友達が迷惑かけてごめんね。家近いし、こいつは俺が送り届けるよ」
「えっ。でも、急に大丈夫ですか?」
「平気平気。こいつの扱いは分かってるし……あ、心配なら連絡先交換する? 家に届けたら、君に連絡するよ」

友達なら大丈夫だと思ったけど……そういうものなのかと、とりあえず連絡先を交換した。SNSのアプリには、大我と表示されている。

見た目も名前もかっこいい人だ。
密かに思量しながらスマホを仕舞い、トイレへ行くか文樹さんに尋ねる。すると彼は無言で首を横に振った。今にも眠ってしまいそうで不安だ。早く家に帰してあげないと。
大我さんの方に向き直り、両手を前で揃えた。
「あの、……この前はすみませんでした。それと文樹さんのこと、宜しくお願いします」
「はは。オーケー、任せて」
彼は笑って手を振り、ちょうどきた電車に文樹さんを引っ張っていった。
そしてドアが閉まる前に振り返り、口角を上げる。
「じゃ。またね、白希君」
「は……い。……また」
ドアが閉まり、電車が発車する。ホームに残って、小さなため息をついた。

かっこよくて穏やかな人だったけど、ちょっと緊張した。
宗一さんとちょっと似てる。洗練されて、隙がない感じ。

でもそれだけじゃない。この胸がざわざわする感じ、何なんだろう。
正体不明の思考に揺れていると、ちょうど宗一さんから着信があった。
『白希、遅いけど大丈夫? 今から迎えに行こうか?』
どうやら心配して掛けてきてくれたらしい。遅いと言ってもまだ二十一時前なので、笑いながら答える。
「すみません、今から帰るので大丈夫ですよ。なにか買って帰りましょうか?」
尋ねると、彼は大丈夫と言い、とにかく夜道に気をつけるよう言い聞かせてきた。宥めつつ電話を切り、反対側にきた電車に乗り込む。

文樹さんはべろべろで歩くのも大変そうだったし、大我さんには悪いことしちゃったな……。

ドアの近くに立ち、スマホをポケットに仕舞う。
飲んでないのに、ずっとお酒や煙草の香りを嗅いでいたせいか頭がふわふわしている。
ちょっと不思議なのは、また手のひらがビリビリと痺れていることだった。




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