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夫婦の契り
#11
しおりを挟む食事の後は、少しだけ外を散歩することになった。
手を繋ぎながら、ライトアップされた街路樹を眺める。平日だけど、デート中らしいカップルをたくさん見かけた。
「はああ。お腹いっぱいで幸せです。料理も綺麗で美味しいし。ご馳走様でした……!」
「あはは、それは良かった」
上機嫌でスキップしていたけど、冷たい風が吹いた瞬間クシャミしてしまった。宗一さんは心配して、肩にかけていたストールを俺の首に巻いてくれた。
「宗一さんも寒いでしょう。大丈夫ですよ!」
「私は平気さ。それより君に風邪をひいてほしくない」
そう言う彼の手は、やっぱり冷たい。
いつも気を遣ってもらってばかりだ。夫婦になったとはいえ、俺と彼の関係は全然変わらない。
……。
レンガ調の石畳を踏みしめながら、彼の手をちょっとだけ強く握った。
「あれ。あったかい」
掌に感じる熱に、宗一はまばたきを繰り返す。白希に触れてる掌だけでなく、全身が適度な熱に包まれているようだった。
「俺達の周りだけ……ちょっと温かくしてみました」
「え、そんなことできるの?」
「短い間なら、意識的にできます。でも気を抜いたら熱くなり過ぎちゃうので、集中が必要です」
それとやはり、温度を下げることはできない。だから彼の役に立てるのは冬の間だけだ。
物質の温度変化と違い、空気中を温かくするのは繊細な技術が求められる。正直、前を歩くだけで精一杯。
結構体力も使う。でもこれぐらい何てことはない。
こんな幸せな苦しみはない。
以前はこんな使い方を試そうとも思わなかった。誰かを傷つけてしまうことが怖くて、この力の全てを拒絶していた。
でもこの力も、俺を形づくる大事な一部分なんだ。
なら突き放すのではなく、むしろ抱き留めよう。二十年近く付き合ってきたんだから、そろそろ打ち解けられてもいいはずだ。
「電熱毛布でも被ってるみたいな温かさだなぁ。適温が上手になったね」
「本当ですか?」
褒められたことが嬉しくて、思わず力みそうになる。慌てて平静を取り戻し、宗一さんの周りに神経を集中させる。
「冬の間は、宗一さんに寒い思いなんてさせません」
ストールをぎゅっと握り締め、踵をしっかり地につける。
「ありがとう。ちなみに夏は?」
「夏は~……が、頑張ります。何故か低温はからっきしなので……」
嫌な汗をかきながら答えると、彼は上品に笑った。
「白希の力は未知数だね。まだまだ研究の余地がありそうだ。興味深くて、私は好きだよ」
宗一さんは相変わらずの寛容さだ。俺は考えるのが苦手だから、もう少しシンプルでもいいぐらいなんだけど……。
熱して冷ます。たったそれだけのことだけど、絶妙な力加減が必要で、対象物によっても働きかける範囲が変わってくる。
完全に操作できないと損しかない力だ。
でも、そんな力すら好きだと言ってくれる人がいる。
だから俺も、この力とちゃんと向き合ってみようと思った。
「駐車場までは安心してくださいね」
「お~、白希は頼もしいなぁ」
二人でふざけ合いながら、白い光に照らされる道を歩いた。体だけでなく、心も温かい。彼も同じなら良いな、なんて思った。
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