熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
103 / 196
夫婦の契り

#11

しおりを挟む




食事の後は、少しだけ外を散歩することになった。

手を繋ぎながら、ライトアップされた街路樹を眺める。平日だけど、デート中らしいカップルをたくさん見かけた。
「はああ。お腹いっぱいで幸せです。料理も綺麗で美味しいし。ご馳走様でした……!」
「あはは、それは良かった」
上機嫌でスキップしていたけど、冷たい風が吹いた瞬間クシャミしてしまった。宗一さんは心配して、肩にかけていたストールを俺の首に巻いてくれた。
「宗一さんも寒いでしょう。大丈夫ですよ!」
「私は平気さ。それより君に風邪をひいてほしくない」
そう言う彼の手は、やっぱり冷たい。
いつも気を遣ってもらってばかりだ。夫婦になったとはいえ、俺と彼の関係は全然変わらない。

……。

レンガ調の石畳を踏みしめながら、彼の手をちょっとだけ強く握った。

「あれ。あったかい」

掌に感じる熱に、宗一はまばたきを繰り返す。白希に触れてる掌だけでなく、全身が適度な熱に包まれているようだった。

「俺達の周りだけ……ちょっと温かくしてみました」
「え、そんなことできるの?」
「短い間なら、意識的にできます。でも気を抜いたら熱くなり過ぎちゃうので、集中が必要です」

それとやはり、温度を下げることはできない。だから彼の役に立てるのは冬の間だけだ。
物質の温度変化と違い、空気中を温かくするのは繊細な技術が求められる。正直、前を歩くだけで精一杯。
結構体力も使う。でもこれぐらい何てことはない。
こんな幸せな苦しみはない。
以前はこんな使い方を試そうとも思わなかった。誰かを傷つけてしまうことが怖くて、この力の全てを拒絶していた。

でもこの力も、俺を形づくる大事な一部分なんだ。
なら突き放すのではなく、むしろ抱き留めよう。二十年近く付き合ってきたんだから、そろそろ打ち解けられてもいいはずだ。

「電熱毛布でも被ってるみたいな温かさだなぁ。適温が上手になったね」
「本当ですか?」

褒められたことが嬉しくて、思わず力みそうになる。慌てて平静を取り戻し、宗一さんの周りに神経を集中させる。
「冬の間は、宗一さんに寒い思いなんてさせません」
ストールをぎゅっと握り締め、踵をしっかり地につける。
「ありがとう。ちなみに夏は?」
「夏は~……が、頑張ります。何故か低温はからっきしなので……」
嫌な汗をかきながら答えると、彼は上品に笑った。

「白希の力は未知数だね。まだまだ研究の余地がありそうだ。興味深くて、私は好きだよ」

宗一さんは相変わらずの寛容さだ。俺は考えるのが苦手だから、もう少しシンプルでもいいぐらいなんだけど……。

熱して冷ます。たったそれだけのことだけど、絶妙な力加減が必要で、対象物によっても働きかける範囲が変わってくる。
完全に操作できないと損しかない力だ。
でも、そんな力すら好きだと言ってくれる人がいる。
だから俺も、この力とちゃんと向き合ってみようと思った。

「駐車場までは安心してくださいね」
「お~、白希は頼もしいなぁ」

二人でふざけ合いながら、白い光に照らされる道を歩いた。体だけでなく、心も温かい。彼も同じなら良いな、なんて思った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

処理中です...