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夫婦の契り
#10
しおりを挟む「困ったことにどんどん綺麗になっていくね、白希は」
「昨日と同じだと思いますけど」
「見た目のことじゃないよ。内面だ」
宗一さんは手慣れた様子でオードブルを綺麗に切り分け、口に運ぶ。
はぁ~……なるほど、そうやって食べるんだ。さすが宗一さん。
「白樹? 聞いてる?」
「あ、はい。めんたい……こ? ですか?」
「明太子の話はしてないよ。君の、何でも果敢に挑戦しようとする姿勢が美しいと思う」
ようやく一口分を切り分けることに成功し、こぼさないよう口に入れる。
「誰だって、初めて挑むことには不安がつきまとうものだ。それでも怯まず行動する者だけが成功する」
「ははぁ~……」
「白希? さっきからどうかした?」
「あぁっ!」
パイで挟んだなにかのお肉が倒れてしまった。ちょっと大きな声を出してしまった為、左右に会釈する。
「すみませんでした……。綺麗に食べようと思って」
「もう、私と二人だけで食べてるんだから気にしなくていいんだよ」
彼はそう言ってくれるけど、スタッフさんも来るしなるべく綺麗に食べたい。
とは言え、食事に集中し過ぎも宗一さんに失礼か。
「申し訳ありません。ええと、姿勢の話でしたね」
「それはまぁいいや……白希は偉い! ってことを言いたかっただけだから」
宗一さんは苦笑いしながら口元をナプキンで拭いた。
「無事に婚姻届を出したことは、両親に伝えたよ。これで名実ともに、私達は周りからも認められた夫婦だ」
「わぁ! すごいですー! とうとうですね!」
素直に嬉しくて、音のない拍手をする。すると宗一さんは急に口元を押さえて俯いた。多分だけど、笑いを堪えている。
「宗一さん……? あの、なにかまずいこと言ってしまいました?」
「いや、違う……。本当に可愛いなぁと思って」
そ、そんな……。途端に恥ずかしくなり、こちらも俯いた。
確かに今の反応は子どもっぽ過ぎた。出てくる言葉も陳腐だし、とても大人の台詞じゃない。
でも大人の台詞ってどんなだろう。また思考の迷路に迷い込んでると、目の前に手を差し出された。
「白希」
「……!」
柔和に微笑む彼に、こちらも相好が崩れた。
目を合わせて座り直す。右手を出し、彼の手をぎゅっと握った。
「これからずっと一緒にいられるなんて。宗一さんのお母様も仰ってましたが、夢みたいです」
「母さんが何か言ってた?」
「はい。お母様は宗一さんが結婚するなんて夢のようだと」
宗一さんなら結婚相手には困らないだろうけど、彼に結婚願望がないなら難しい。お母様はそれを嘆いていたんだろう。
宗一さんは珍しく頬を赤らめ、軽く咳払いした。
「全く母さんは……誰だって尖ってる時期ぐらいあるのにねぇ」
「まぁまぁ。……それに俺も、自分が結婚するなんて夢にも思いませんでしたよ。一年前の、抜け殻みたいな俺に教えてあげたいです」
塞ぎ込んで、この世の全てに絶望して。膝を涙でぬらしていた自分に。
ワインを空いたグラスに注ぐと、彼は眉を下げて笑った。
「そうか。……それは、私も教えてあげたかった」
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