熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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夫婦の契り

#9

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翌週、自分を限界まで鼓舞し、初の職場へ向かった。
店長さんと改めて挨拶を交わして、ほぼ白紙の履歴書を手渡した。申し訳なさに三回は死ねると思ったけど、彼は本当に優しくて、笑って流してくれた。

店長の境江さんは何も分からない俺に考慮して、単純な掃除や雑務を教えてくれた。頭を使ったのは支出表のチェックだけで、それも最終的には境江さんがチェックすることになる。正直本当にホッとした。
上がる頃に文樹さんがやってきて、エプロンをかけると心配そうに声を掛けてくれた。
「おつかれ。どお? 初勤務は」
「緊張しましたけど、すごく丁寧に教えていただきました。俺でもできる仕事を選んでいただいたので、何とか。ありがとうございます」
「やったじゃん! とにかくこれで、お前は職歴ありだよ! もう心配なし!」
彼は片手を高くかざす。反射的にこちらも片手を上げ、ハイタッチした。
たった一日だし、続いたとしても短期なので何とも言えないけど……彼の気遣いがただ嬉しかった。

本当に、誰もができることしかしてないけど……無事に終わったことに安堵してる。
境江さんにもお礼を言い、初めての仕事は終了した。



「白希、よく頑張ったね。乾杯!」
透明グラスの中で、深紅の液体がちらちら光る。
「白希はお水でごめんね。お酒は、外ではまだやめておいた方がいいと思って」
「ありがとうございます、お水の方が良いですよ。あと仕事でやったことと言えば本当に微々たるものなんですけど」
「関係ないよ。ふぅ、自分が満足いく仕事したときより美味しいなんてね……」

その日の夜は自宅ではなく、急遽宗一さんが予約したレストランで食事することになった。
初めてのフレンチだったこともあり、正直すごく緊張した。ドレスコードもあるし、場違い感が否めない。

ナプキンは膝の上に二つ折りで大丈夫だっけ?
使うのはフォークとナイフと……やたらスプーンが多い。 こんなに揃えて何に使うんだろ。
和食のマナーなら少しは頭に入ってるけど、洋食は未知の世界だ。頭の中でぐるぐる考えていたけど、とりあえず宗一さんの真似をすることにした。宗一さんが一口食べたらこちらも食べる、という流れになり、これまた異様な光景を生んでしまう。

ナイフ入れたら思いっきり崩れそうな料理が出てきたし、下手に動けない。美しい見た目の料理と見つめ合っていると、宗一さんはうっとりした様子でワインを口にした。



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