101 / 196
夫婦の契り
#9
しおりを挟む翌週、自分を限界まで鼓舞し、初の職場へ向かった。
店長さんと改めて挨拶を交わして、ほぼ白紙の履歴書を手渡した。申し訳なさに三回は死ねると思ったけど、彼は本当に優しくて、笑って流してくれた。
店長の境江さんは何も分からない俺に考慮して、単純な掃除や雑務を教えてくれた。頭を使ったのは支出表のチェックだけで、それも最終的には境江さんがチェックすることになる。正直本当にホッとした。
上がる頃に文樹さんがやってきて、エプロンをかけると心配そうに声を掛けてくれた。
「おつかれ。どお? 初勤務は」
「緊張しましたけど、すごく丁寧に教えていただきました。俺でもできる仕事を選んでいただいたので、何とか。ありがとうございます」
「やったじゃん! とにかくこれで、お前は職歴ありだよ! もう心配なし!」
彼は片手を高くかざす。反射的にこちらも片手を上げ、ハイタッチした。
たった一日だし、続いたとしても短期なので何とも言えないけど……彼の気遣いがただ嬉しかった。
本当に、誰もができることしかしてないけど……無事に終わったことに安堵してる。
境江さんにもお礼を言い、初めての仕事は終了した。
「白希、よく頑張ったね。乾杯!」
透明グラスの中で、深紅の液体がちらちら光る。
「白希はお水でごめんね。お酒は、外ではまだやめておいた方がいいと思って」
「ありがとうございます、お水の方が良いですよ。あと仕事でやったことと言えば本当に微々たるものなんですけど」
「関係ないよ。ふぅ、自分が満足いく仕事したときより美味しいなんてね……」
その日の夜は自宅ではなく、急遽宗一さんが予約したレストランで食事することになった。
初めてのフレンチだったこともあり、正直すごく緊張した。ドレスコードもあるし、場違い感が否めない。
ナプキンは膝の上に二つ折りで大丈夫だっけ?
使うのはフォークとナイフと……やたらスプーンが多い。 こんなに揃えて何に使うんだろ。
和食のマナーなら少しは頭に入ってるけど、洋食は未知の世界だ。頭の中でぐるぐる考えていたけど、とりあえず宗一さんの真似をすることにした。宗一さんが一口食べたらこちらも食べる、という流れになり、これまた異様な光景を生んでしまう。
ナイフ入れたら思いっきり崩れそうな料理が出てきたし、下手に動けない。美しい見た目の料理と見つめ合っていると、宗一さんはうっとりした様子でワインを口にした。
21
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説


淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる