97 / 196
夫婦の契り
#5
しおりを挟む翌日は宗一さんのお母様の言う通りになった。
宗一さんは出社を遅らせ、役所に婚姻届を提出した。何度も見直しはしたけどやっぱり緊張するもので、俺は口からなにか色々出そうになった。
でもそんな不安は杞憂で、漏れもなく、無事に受理される運びになった。
これで本当に……夫婦になっちゃったんだ。
同じく無理やり出社を遅らせられた雅冬さんが立ち会い、ほっとしたように拍手してくれた。
「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、おめでとう白希。と、宗一様も」
「ありがとうございます、雅冬さん!」
「一時って何のことかな? 私達は何一つ問題なく、仲睦まじく暮らしていたけど」
「まあまあ宗一さん! 素直に喜びましょう! ね!?」
不可解そうに眉根を寄せる宗一を必死に宥め、白希はキャップをとった。
「それもそうか。今ぐらいは惚気けてもいいよね?」
「あ~、いいけど周りに迷惑かけないようにお願いします」
雅冬さんがめんどくさそうに答えると、めげない宗一さんは俺の方を向いて両手を広げた。
「おいで、白希。これからは夫婦として、よろしく」
「……っ!」
俺も……人目も憚らずにアホだと思われると確信したけど、彼の胸の中に飛び込んだ。
「こちらこそ、宜しくお願いします……!」
雅冬は無音カメラで二人の抱擁の写真を撮り、苦笑しながらポケットに仕舞った。
「雅冬、今の写真後で送ってくれ」
「どうしようかなー。次のボーナス上げてくれたら送るかも」
「仕方ないな。まぁもう二年になるし、上に掛け合ってみるよ」
「よっしゃ。ま、冗談はさておき……おめでとう。俺からしたら絶滅危惧種に近い夫婦だけど」
彼の言葉を受け、宗一さんと顔を見合せて笑った。
本当に、こんな普通じゃない夫婦はどこを捜してもいないだろう。人にはない力を持って生まれた俺達は、これからも力を隠して生きていく。
「じゃあ、私達はこのまま会社に行く。白希は?」
「あ、俺は用事があるので……夜になる前には帰ります。お二人とも、お気をつけて」
お辞儀すると、雅冬さんは心配そうに眉を下げて笑った。
「初めて会った時はひとりで外を歩かせられないと思ったのに……何だか早くも大人になったみたいで感慨深いな。宗一も、恋人っていうよりバカ親みたいだったし」
「君、ボーナス上げてほしいんじゃなかったのかい? ……とにかく白希、気をつけてね。変な人についてったら駄目だよ」
「あはは。はい!」
二人と別れ、役所を出る。太陽は今日もカンカン照りだ。
また世界ががらりと変わった。
俺の世界だった人と、家族になった。
人生何が起きるか分からない。というのは、本当にその通りだ。現実は小説よりも奇なり。
人に迷惑をかけるだけだった俺が、新しい居場所を手に入れ、大切な人と生きることになった。
どうしよう。上手く言葉にできないけど、この場で叫びたいぐらい嬉しい。
通り過ぎる人達を横目に、少し軽い足取りで先を歩いた。
「お。白希、こっちこっち」
その日の昼過ぎ、白希は駅ビル前の広場に来ていた。待ち合わせをしていた相手は白希の姿を認めると、背伸びして手招きした。
「文樹さん。おつかれさまです」
「おつかれ。婚姻届出してきたの?」
「はい!」
「わ、じゃあマジで奥さんじゃん。いや、旦那? 分からないけど、おめでとう」
勇気を振り絞り、彼には結婚相手が同性だということを話しておいた。やっぱり驚いていたけど、良いじゃんと笑って受け入れてくれた。彼も本当におおらかで優しい青年だ。
「あは……、ありがとうございます」
祝福の言葉をくれたのは、カフェで話した日以来の文樹さんだ。今日は大学は昼までで、午後は時間が空いてるから遊ばないかと誘われた。
22
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説

次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-
悠里
BL
モテモテの親友の、愛の告白を断り切れずに、OKしてしまった。
だって、親友の事は大好きだったから。
でもオレ、ほんとは男と恋人なんて嫌。
嫌なんだけど……溺愛されてると……?
第12回BL大賞にエントリーしています。
楽しんで頂けて、応援頂けたら嬉しいです…✨

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる