熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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夫婦の契り

#5

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翌日は宗一さんのお母様の言う通りになった。
宗一さんは出社を遅らせ、役所に婚姻届を提出した。何度も見直しはしたけどやっぱり緊張するもので、俺は口からなにか色々出そうになった。
でもそんな不安は杞憂で、漏れもなく、無事に受理される運びになった。

これで本当に……夫婦になっちゃったんだ。

同じく無理やり出社を遅らせられた雅冬さんが立ち会い、ほっとしたように拍手してくれた。
「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、おめでとう白希。と、宗一様も」
「ありがとうございます、雅冬さん!」
「一時って何のことかな? 私達は何一つ問題なく、仲睦まじく暮らしていたけど」
「まあまあ宗一さん! 素直に喜びましょう! ね!?」
不可解そうに眉根を寄せる宗一を必死に宥め、白希はキャップをとった。

「それもそうか。今ぐらいは惚気けてもいいよね?」
「あ~、いいけど周りに迷惑かけないようにお願いします」

雅冬さんがめんどくさそうに答えると、めげない宗一さんは俺の方を向いて両手を広げた。

「おいで、白希。これからは夫婦として、よろしく」
「……っ!」

俺も……人目も憚らずにアホだと思われると確信したけど、彼の胸の中に飛び込んだ。

「こちらこそ、宜しくお願いします……!」

雅冬は無音カメラで二人の抱擁の写真を撮り、苦笑しながらポケットに仕舞った。
「雅冬、今の写真後で送ってくれ」
「どうしようかなー。次のボーナス上げてくれたら送るかも」
「仕方ないな。まぁもう二年になるし、上に掛け合ってみるよ」
「よっしゃ。ま、冗談はさておき……おめでとう。俺からしたら絶滅危惧種に近い夫婦だけど」
彼の言葉を受け、宗一さんと顔を見合せて笑った。
本当に、こんな普通じゃない夫婦はどこを捜してもいないだろう。人にはない力を持って生まれた俺達は、これからも力を隠して生きていく。

「じゃあ、私達はこのまま会社に行く。白希は?」
「あ、俺は用事があるので……夜になる前には帰ります。お二人とも、お気をつけて」

お辞儀すると、雅冬さんは心配そうに眉を下げて笑った。
「初めて会った時はひとりで外を歩かせられないと思ったのに……何だか早くも大人になったみたいで感慨深いな。宗一も、恋人っていうよりバカ親みたいだったし」
「君、ボーナス上げてほしいんじゃなかったのかい? ……とにかく白希、気をつけてね。変な人についてったら駄目だよ」
「あはは。はい!」
二人と別れ、役所を出る。太陽は今日もカンカン照りだ。

また世界ががらりと変わった。
俺の世界だった人と、家族になった。

人生何が起きるか分からない。というのは、本当にその通りだ。現実は小説よりも奇なり。
人に迷惑をかけるだけだった俺が、新しい居場所を手に入れ、大切な人と生きることになった。

どうしよう。上手く言葉にできないけど、この場で叫びたいぐらい嬉しい。

通り過ぎる人達を横目に、少し軽い足取りで先を歩いた。



「お。白希、こっちこっち」
その日の昼過ぎ、白希は駅ビル前の広場に来ていた。待ち合わせをしていた相手は白希の姿を認めると、背伸びして手招きした。
「文樹さん。おつかれさまです」
「おつかれ。婚姻届出してきたの?」
「はい!」
「わ、じゃあマジで奥さんじゃん。いや、旦那? 分からないけど、おめでとう」
勇気を振り絞り、彼には結婚相手が同性だということを話しておいた。やっぱり驚いていたけど、良いじゃんと笑って受け入れてくれた。彼も本当におおらかで優しい青年だ。
「あは……、ありがとうございます」
祝福の言葉をくれたのは、カフェで話した日以来の文樹さんだ。今日は大学は昼までで、午後は時間が空いてるから遊ばないかと誘われた。




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