96 / 196
夫婦の契り
#4
しおりを挟む「宗一が誰かをここまで好きになるなんて、私達にとっては夢のようなの。本当に心を許した相手以外はロボットがなにかだと思って接するような子だったから……本当にありがとうね」
「お、お礼を言われるようなことはありません! むしろこちらこそ、本当にありがとうございます! ががが頑張りますので!」
何を頑張るのか自分でもよく分からないが、最敬礼で答えた。
「ありがとう。思ったより元気いっぱいで安心したわ。それじゃあ、またね」
「はい!」
宗一さんもお父様と話が終わったようで、こちらにやってきた。
「行こうか」
頷き、彼の車に乗り込む。お母様は見えなくなるまで手を振ってくれた。
二人きりになって、ようやくいつもの心拍数に戻った気がする。さっきまでは二倍速だったんじゃないかと疑ってしまうほど興奮していた。
「あの……宗一さん、ご両親が同意してくださってることを知ってたんですね」
「もちろん。というか、前に白希にも言ったよ?」
「いや、だって人伝ですもん。……冷静に考えたら、反対されるのが普通だから」
両手を組み、自分なりに不安を伝える。自分だけ何も分からず大騒ぎしてしまったこともあり、後々になって自己嫌悪に駆られる。
だけど宗一さんは、嬉しそうに窓側に頬杖をついた。
「父さん達に啖呵切る白希は男らしかったよ。惚れたし、初めてかっこいいと思った」
「たっ啖呵なんて! そんなつもりじゃありませんでした!」
どこの世界に、ご両親の挨拶に喧嘩を売りに行く婚約者がいるんだ。ため息を通り越して泣きたくなったものの、不意にこちらに伸びた手に頭を撫でられる。
「ごめんごめん。とにかく怖がらせて悪かったね。私は全然心配してなかったんだけど」
「……力をコントロールできてるなんてことも言うし。今日の宗一さんは総合的に意地悪でした」
少し頬を膨らませて顔を逸らすと、少しだけ車の速度が落ちた。
「……そんな私も好きなんじゃないの?」
「……っ!」
本当にこの人は……。
この堂々たる自信が心底羨ましい。と同時に、どこまでも惹かれてしまう。
「好きです」
「あはは! ありがとう。私も君が大好きだよ」
悔しいけど、これは絶対的だ。覆ることは一生、ない。
宗一さんが好きで好きでしょうがない。もはや病的なまでに。
もしかしたら、俺も重いのかな……。
ちょっと不安になりながら、窓の外に視線を移す。ようやく見慣れてきた街中。たくさんのお店が並ぶ大通りをゆっくり進みながら、道行くカップル達を眺める。
俺ももう、あの人達と同じように宗一さんと歩いてるんだろうか。
そう思ったら、途端に見える景色が変わった。これからはもう他人ではなく、家族になる。
まだいまいち想像できないけど、すごいことだ。
俺は血の繋がった家族とすら、ちゃんとした関係を築けてないのに。
……でも、それもいつか変えたい。
「宗一さんのお父様とお母様は、やっぱり優しい人達でした」
顔は窓の方に向けたまま、はっきり呟く。
振り向かなかったけど、隣に座る宗一さんは笑った気がした。
21
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる