熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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夫婦の契り

#4

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「宗一が誰かをここまで好きになるなんて、私達にとっては夢のようなの。本当に心を許した相手以外はロボットがなにかだと思って接するような子だったから……本当にありがとうね」
「お、お礼を言われるようなことはありません! むしろこちらこそ、本当にありがとうございます! ががが頑張りますので!」

何を頑張るのか自分でもよく分からないが、最敬礼で答えた。
「ありがとう。思ったより元気いっぱいで安心したわ。それじゃあ、またね」
「はい!」
宗一さんもお父様と話が終わったようで、こちらにやってきた。
「行こうか」
頷き、彼の車に乗り込む。お母様は見えなくなるまで手を振ってくれた。

二人きりになって、ようやくいつもの心拍数に戻った気がする。さっきまでは二倍速だったんじゃないかと疑ってしまうほど興奮していた。
「あの……宗一さん、ご両親が同意してくださってることを知ってたんですね」
「もちろん。というか、前に白希にも言ったよ?」
「いや、だって人伝ですもん。……冷静に考えたら、反対されるのが普通だから」
両手を組み、自分なりに不安を伝える。自分だけ何も分からず大騒ぎしてしまったこともあり、後々になって自己嫌悪に駆られる。
だけど宗一さんは、嬉しそうに窓側に頬杖をついた。

「父さん達に啖呵切る白希は男らしかったよ。惚れたし、初めてかっこいいと思った」
「たっ啖呵なんて! そんなつもりじゃありませんでした!」

どこの世界に、ご両親の挨拶に喧嘩を売りに行く婚約者がいるんだ。ため息を通り越して泣きたくなったものの、不意にこちらに伸びた手に頭を撫でられる。

「ごめんごめん。とにかく怖がらせて悪かったね。私は全然心配してなかったんだけど」
「……力をコントロールできてるなんてことも言うし。今日の宗一さんは総合的に意地悪でした」
少し頬を膨らませて顔を逸らすと、少しだけ車の速度が落ちた。

「……そんな私も好きなんじゃないの?」
「……っ!」

本当にこの人は……。
この堂々たる自信が心底羨ましい。と同時に、どこまでも惹かれてしまう。
「好きです」
「あはは! ありがとう。私も君が大好きだよ」
悔しいけど、これは絶対的だ。覆ることは一生、ない。
宗一さんが好きで好きでしょうがない。もはや病的なまでに。
もしかしたら、俺も重いのかな……。
ちょっと不安になりながら、窓の外に視線を移す。ようやく見慣れてきた街中。たくさんのお店が並ぶ大通りをゆっくり進みながら、道行くカップル達を眺める。

俺ももう、あの人達と同じように宗一さんと歩いてるんだろうか。
そう思ったら、途端に見える景色が変わった。これからはもう他人ではなく、家族になる。
まだいまいち想像できないけど、すごいことだ。

俺は血の繋がった家族とすら、ちゃんとした関係を築けてないのに。
……でも、それもいつか変えたい。

「宗一さんのお父様とお母様は、やっぱり優しい人達でした」

顔は窓の方に向けたまま、はっきり呟く。
振り向かなかったけど、隣に座る宗一さんは笑った気がした。




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