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夫婦の契り
#2
しおりを挟むそうか。確かに、篭っていた自分はともかく、彼らは親同士でたくさん付き合いがあったはずだ。
腑に落ちて頷いてると、不意によく知る人物の名前が出てきた。
「直忠君とはしょっちゅう会ってたんだけどね。今後どこで何をしてるんだか……」
彼女の暗いため息から、再び現状を思い返した。
余川直忠。白希の年の離れた兄だ。宗一と同い年で、彼らは友人だった。
「……元気だよ」
淡白に答えた宗一さんに、お父様は目の色を変える。
「お前、彼らの行方を知ってるんだな?」
「全部は知らない」
「少しでも知ってるならいい。もう二度と、彼らを白希君に近付けさせるな。どんな事情があろうと、あの夫婦がやっていた事は立派な虐待なんだ。学校にも行かさず、何年も屋敷に閉じ込めて……お前は呑気にかまえてるが、本来警察に届けるところだぞ」
それまで落ち着いていた彼から、確かな憤りを感じた。慌てて間に入り、自分の気持ちを吐露する。
「だ、大丈夫ですよ。……むしろ、二十歳になるまで面倒を見てくれたことに感謝してるんです。俺のことが本当に恐ろしかったら、自分達だけで遠くに逃げるのが普通なんじゃないか、って」
「……それか、村から離れられない理由があった。白希君が二十歳になったと同時に屋敷が燃えて、彼らが失踪したのはちゃんとした理由がある。そうよね、宗一?」
「まぁ……でも、白希が良いと言ってるんだ。私は白希が安心して暮らせるなら、それでもいいと思ってる」
宗一さんは片足をつま先立ちさせ、二人に向かって微笑んだ。
「私を救ったのは白希の純粋な想いだよ。だから一生をかけて彼を愛すると決めた」
「あらぁ……息子が二人になっちゃうわ」
お母様の反応は何か違う気がしたけど、感慨深いようなので黙っていた。
色々な話が飛び交ったけど、どうやら彼らの心は最初から決まってるみたいだ。
宗一さんは思い出したように手を叩き、鞄の中から婚姻届を取り出した。
「私も父さんと母さんには本当に感謝してる。これまで色々迷惑かけて、本当にごめん。そして、育ててくれてありがとう」
深い一礼の後、彼はゆっくり顔を上げ、ぺんと一緒に用紙を差し出した。
「……ということで、証人のところにサインを貰いたいんだ」
感動から現実に引き戻すのがすごく速い。
俺が一番血の気が引いていたけど、……お母様とお父様は短い沈黙の後、苦笑しながらサインしてくれた。
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