熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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夫婦の契り

#1

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「白希……」

頭のすぐ横で、片膝が床についた。宗一さんが傍に来てくれたのだと分かったけど、頭は上げなかった。
俺が今向き合わないといけないのは、彼のご両親だから。……宗一さんは彼らの意見すら押し切っていきそうだけど、俺はやっぱり彼らに認めてもらいたいんだ。
大好きな人のご両親の意見を無視するなんて、そんなの嫌だ。

「お願いします。どうか……!」
「息子さんを僕にください。……って話なんだ。父さん、母さん」

またもや俺の台詞を遮り、宗一さんは俺の手を引っ張った。強い力で引き寄せられた為、彼の胸に抱かれてしまう。
「もう充分だろう? 白希をいじめるのもこの辺にしてもらえるかな。温厚な私もそろそろ怒るよ」
「あらやだ、怖い。お父さんがひとりで盛り上がってたのよ。私は違いますからね」
「別に意地悪しようなんて気はなかったぞ。私はただ事実確認をしただけだ。余川家の者を引き取る以上、重い責任がつきまとうからな」

……。

……何だ?
三人のやり取りは確かに聞き取れたけど、内容がいまいち理解できない。
宗一さんに抱かれたまま固まっていると、お母様の方が口元を押さえて笑った。

「怖がらせてごめんなさいね、白希君。さっきのはこの人が意地悪をしてたのよ。私達は別に、力のことは何とも思ってないわ」
「え」
「宗一も昔は酷かったのよ? 車を軽くして危うく横転しそうになったり……あ、横転したんだったわ。昔のことだから忘れてきちゃった」
「そんなことあったっけ? 全然覚えてないな」

あっけらかんと答える宗一さんに、今度はお父様の顔が険しくなる。
「全く……。お前の力のこともあって、村から出ることを決めたんだぞ。あそこにいると余川家の者含め、力を利用しようとしてくる人間ばかりだからな」
彼はゆっくり立ち上がり、俺達の一歩手前までやってきた。
「私は危険を感じて、妻と息子を連れて村を出たんだ。だが君のことまでは救えなかった。今さら謝っても何にもならないが、……すまない」
眼前に手を差し出される。躊躇ったものの、その手をとった。

「とんでもございません。……これは私と、私の家族の問題ですから」
「だが、余川家とは昔から村をまとめる役目を背負っていたんだ。君のお父さんも様子が変わったから、私が一方的に縁を切ったんだ。でもまさか、次男を幽閉していたとはな。縁を切って正解だったが」
「何の非もない貴方が辛い目にあっていたことは、私達も宗一から聞かされて知ったの。宗一も同じ力を持って生まれたのに、あまりに酷いと思って……そのことをずっと悔やんでいたんですよ」
二人は困ったように笑い、互いに顔を見合わせた。

彼らは俺の事情を全て知った上で、……俺の心情まで理解してくれてたんだ。

宗一さんが伝えてくれたおかげだと思うけど、有難くて、それに嬉しくて……結局涙が零れてしまった。
「あらあら、大丈夫?」
「すみません、大丈夫です……っ」
「もう、だから白希を脅すようなことはやめてとあれほど……」
宗一さんが不満全開にして腕を組むと、お父様は背中を逸らして高笑した。

「ははは! でもさっきの告白は良かったよ。宗一に聞いていたより威勢が良くて気に入った」
「い、威勢……」
まずい方向に受け取られ、青ざめる。すると宗一さんのお母様は、ハンカチを渡してくれた。
「ふふふ……ところで、ねぇ、私達会うのは初めてじゃないのよ。貴方がまだ本当に小さい時に、私とこの人は余川さん家の会合で会ってるの。覚えてないと思うけど」




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