92 / 196
火照った秘密
#20
しおりを挟むまずい。よりによってかなり苦手なことを試されてる。冷たいものを熱くするのはわりと得意だけど、何故か熱いものの温度を下げるのは下手なんだ。
心臓がばくばく鳴るのを押さえながら、彼女からケトルを受け取った。
ここで失敗したら宗一さんとも別れることになるかもしれない。
彼と引き離されて、また村に戻ることになるんじゃ……?
考えたら恐ろしくて、息が苦しくなった。
また、あの暗くて狭い箱の中に戻らなきゃいけないなんて……それならもう、いっそ……。
「白希」
「っ!」
ケトルを持った手に、大きな手のひらが重なる。見上げると、宗一さんが傍で優しく微笑んだ。
「大丈夫。いつも通りやってごらん」
「宗一、さん……」
あたたかい眼差しを受けただけで思わず泣きそうになった。
でもこんなことで泣いたら本当にやばい人だと思われるので、首を横に振って両手に集中する。
「では、や、やりますね」
宗一さんと一緒に暮らす為。彼らに認めてもらえるように、自分ができることを全力でやらなくちゃ。
温度を下げるイメージを脳内で浮かべ、徐に頷く。カップも渡された為、そこにケトルの中身を注いでみた。
湯気は立ってない。これなら恐らく……。
カップを口に運び、宗一さんのお父様は瞼を伏せた。心なしか宗一さんも緊張しているように見える。
頼む。どうか水であってくれ。
心の中で必死に願っていると、彼は深いため息と共に脚を組んだ。
「熱くはないが。……水とは言えないな」
え。
胸が苦しくなる。宗一さんも、空いてるカップで飲み、ぬるま湯かな、と答えた。
「今日は調子が悪かったんだよね、白希? 父さん達には分からないだろうけど、私達はその日の体調によって力の制御が」
「申し訳ございません! お……私は、実はまだ完全に力のコントロールができてません!」
その場で床に膝をつき、二人に頭を下げた。
「嘘をついて本当にごめんなさい。この時点で、私は……息子さんには相応しくない人間だと分かっています」
床に頭をつけそうな勢いだと自分でも分かったけど、なりふりかまっていられなかった。本当のことを言わないと、彼らには絶対に認めてもらえない。少なくとも一生信用してもらえない。
一度欺こうとしたことは、やっぱり許されない。贖罪した上で、彼らの気持ちに真摯に向き合わないと。
「ただ……彼が好きだという気持ちには、嘘偽りはありません。生きていくことも毎日精一杯で、学ばなきゃいけないこともたくさんあるんですが……必ず自立して、彼を支えられるよう精進していくつもりです。お二方からすれば不安で仕方ないと思うんですけど、どうか信じてください……!」
もう床にも手をついて、自分なりの誠心誠意を叩きつけた。
社会的立場を背負っている彼らには、こんな誓いと決意はまるで響かないかもしれないけど……それでも諦めたくない。
宗一さんと二人で幸せになるという、夢を。
21
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる