熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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火照った秘密

#20

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まずい。よりによってかなり苦手なことを試されてる。冷たいものを熱くするのはわりと得意だけど、何故か熱いものの温度を下げるのは下手なんだ。

心臓がばくばく鳴るのを押さえながら、彼女からケトルを受け取った。

ここで失敗したら宗一さんとも別れることになるかもしれない。
彼と引き離されて、また村に戻ることになるんじゃ……?

考えたら恐ろしくて、息が苦しくなった。
また、あの暗くて狭い箱の中に戻らなきゃいけないなんて……それならもう、いっそ……。

「白希」
「っ!」

ケトルを持った手に、大きな手のひらが重なる。見上げると、宗一さんが傍で優しく微笑んだ。
「大丈夫。いつも通りやってごらん」
「宗一、さん……」
あたたかい眼差しを受けただけで思わず泣きそうになった。
でもこんなことで泣いたら本当にやばい人だと思われるので、首を横に振って両手に集中する。

「では、や、やりますね」

宗一さんと一緒に暮らす為。彼らに認めてもらえるように、自分ができることを全力でやらなくちゃ。
温度を下げるイメージを脳内で浮かべ、徐に頷く。カップも渡された為、そこにケトルの中身を注いでみた。

湯気は立ってない。これなら恐らく……。
カップを口に運び、宗一さんのお父様は瞼を伏せた。心なしか宗一さんも緊張しているように見える。

頼む。どうか水であってくれ。
心の中で必死に願っていると、彼は深いため息と共に脚を組んだ。

「熱くはないが。……水とは言えないな」

え。
胸が苦しくなる。宗一さんも、空いてるカップで飲み、ぬるま湯かな、と答えた。

「今日は調子が悪かったんだよね、白希? 父さん達には分からないだろうけど、私達はその日の体調によって力の制御が」
「申し訳ございません! お……私は、実はまだ完全に力のコントロールができてません!」

その場で床に膝をつき、二人に頭を下げた。
「嘘をついて本当にごめんなさい。この時点で、私は……息子さんには相応しくない人間だと分かっています」
床に頭をつけそうな勢いだと自分でも分かったけど、なりふりかまっていられなかった。本当のことを言わないと、彼らには絶対に認めてもらえない。少なくとも一生信用してもらえない。
一度欺こうとしたことは、やっぱり許されない。贖罪した上で、彼らの気持ちに真摯に向き合わないと。

「ただ……彼が好きだという気持ちには、嘘偽りはありません。生きていくことも毎日精一杯で、学ばなきゃいけないこともたくさんあるんですが……必ず自立して、彼を支えられるよう精進していくつもりです。お二方からすれば不安で仕方ないと思うんですけど、どうか信じてください……!」

もう床にも手をついて、自分なりの誠心誠意を叩きつけた。
社会的立場を背負っている彼らには、こんな誓いと決意はまるで響かないかもしれないけど……それでも諦めたくない。

宗一さんと二人で幸せになるという、夢を。




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