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火照った秘密
#17
しおりを挟む「前に何でそんなに結婚にこだわるのか、不思議がっていたね」
紙をテーブルに置き、宗一さんは目を細める。
「社会的に強い繋がりを得たいというのが一つ。もう一つは、君に花嫁衣装を着せたいからだ」
「え?」
「真っ白な晴れ姿も憧れていただろう?」
宗一さんは自分の部屋から、少し色褪せた封筒を持ってきた。裏面には白希の名前が書かれている。ずっと昔、自分が彼に送った手紙だろう。
「宗一さんん……もう、これらは俺の恥ずかしい歴史なので」
「自分の夢を恥ずかしいなんて言っちゃいけないよ。他人には笑われるかもしれないけど……それなら尚さら、自分だけは大切にしてあげなくちゃ」
丁寧に便箋を開け、初々しい文字を辿っていく。そこには確かに、謎の結婚への憧れと、その後の理想の生活について書かれていた。
どういう経緯でこの話題になったのか分からないが、遡っていくと前回の手紙で宗一さんから結婚のイメージなどを根掘り葉掘り訊かれているようだった。
「これは誘導尋問だと思います」
「そんな言葉どこで覚えたんだい。あんまり怖いドラマや映画ばかり見ちゃ駄目だよ?」
宗一さんは不服そうに顔を顰めるけど、こちらとしては少々違和感がある。好きなタイプとかを遠回しに書いてるし、もし質問されてもないのに答えてるとしたらかなり積極的なアプローチだ。
宗一さんに訊かれて答えてるだけならまだ良いんだけど……久しぶりに触れた便箋からは、温もりを感じた。
「ほら見て、大きな花束と白いドレスが着たいって書いてある」
「これ本当に俺が書いたんですか……男なのに……」
「私が、男でもドレスを着ていいって書いたんだよ」
「やっぱり誘導してる!」
のほほんと答える彼に全力でつっこんだ。しかし自分も、世間知らずじゃ済まない。花婿じゃなく花嫁になれると本気で思ってたんだ。
今は同性婚が認められてるけど、そうじゃなかったらひたすら痛い子どもだったな……。
嫌な手汗をかきながら、自分が綴った文章を追っていく。
宗一さんのことが大好きなんだな。
客観的に見てもそう思える内容だった。
「君には分からないだろうけど、平静じゃいられないぐらい、熱い想いが込められてるんだ。もしかしたらこれは君だけが持つ力なのかもね」
「はー……確かに、その可能性もありますね」
書いた俺は意識してないけど、宗一さんはこの手紙から凄まじい感情が流れ込んでるらしいから……好意が爆発していた俺の手から、手紙に特別な熱が込められているのかもしれない。
でもそれ、本当に恥ずかしい力だ。要は自分の感情を制御できてないから漏れてしまったに過ぎない。
「純白の衣装か……確かに憧れますけど、宗一さんの方が似合うと思います」
「似合う似合わないじゃないよ。自分が着たいかどうか。私も常にそうしてる」
「それは宗一さんがかっこいいから……」
苦笑いしながら答えると、ぎゅっと頬を手ではさまれた。
「じゃあこうしよう。かっこいい私が言うんだから信じなさい。君は、世界一可愛い」
「……っ!!」
なんって甘い口説き文句だろう。
直視するのも恥ずかしくて、彼の手に触れた。
「白希? 私のせいだけど、ちょっと熱い」
「はわっ! すすすすみません!」
力が働いて、彼の周囲の温度が上昇してるらしかった。慌てて離れ、席から立つ。
「大丈夫だよ。この紙さえ無事なら」
宗一さんは婚姻届を二つ折りし、軽くキスした。
「改めて言わせてくれ。これからは私の妻として、共に生きよう」
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