熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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火照った秘密

#15

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宗一さんは、ぎりぎりまで波打ち際に寄り、俺の手をとった。

「息するのが気持ちいい、って何か良いですね」
「ふふっ。私も初めて思ったことだけどね」

美しいものに触れるほど、自身の醜さに嫌気がさしてしまうことも多いけど。確かに洗い流されるものもあるんだろう。

俺にとっては恐怖と不安。自分に対するやるせなさ。
少しずつではあるけど、心にこびりついたものが落ちている気がする。自分の力で行動しようすることが増えて、ようやく自我が芽生えた。
「ありがとうございます、宗一さん」
本当に幸せだ。
初めて見る、きらきらした貝殻を拾い上げる。少し欠けてしまっている。他にも色々見ていると、宗一さんがひとつ持ってきてくれた。
「これなんてどう?」
「わ、綺麗! これ、勝手に持って帰るのはまずいですか?」
「貝殻集めは皆やってるし、一個ぐらいなら大丈夫だよ。でも怪我しないようにね」
「はい!」
大事にポケットに仕舞い、車の方へ戻った。
道中、宗一さんを見る女性がたくさんいて……改めて少し気になったけど、当の本人が気にしてないから気付かないふりをした。

他所の人からしたら、俺と彼はどういう関係に見えるんだろう。
歳は離れてるけど似てないし、兄弟には思われないはず。こんなかっこいい人の隣に俺みたいな人間がいたら、皆近付き難いかな……。

「白希。次は夏に海に行こうね。泳いでもいいし」

帰路につき、宗一さんはサングラスを外して微笑んだ。
「良いですね。でも泳げるかどうか……!」
「水に浸かるだけでいいんだよ。お風呂に入れるんだから平気さ」
「海は波がありますよ?」
「私が支えてあげるから心配ない。ね?」
鼻の先を指でつつかれ、わっ、と瞼を閉じた。
彼がいればとりあえず大丈夫な気がしてくるから怖いなぁ。

「その時は宜しくお願いします。……宗一さん、今夜はなにか食べたいものあります?」
「うーん、そうだねぇ……お刺身があったから、海鮮丼とかにして食べたいかも」
「わかりました。お任せください!」

無事に家に帰り、彼のリクエスト通り鮪の丼をつくった。ただお米に乗せるだけなのに、たくさんの海苔をかけて食べると至福の味で、宗一さんも満足そうだった。
「家に魚があるから向こうで食べなくて良かった。白希が料理上手になって、私は本当に幸せだよ」
「あはは、これは乗せるだけですから」
お腹も満たされて、二人でソファで寛ぐ。その時、ふとリビングの小棚が目に入った。

「……」

あまりに見つめてしまっていた為、気付いた宗一さんが首を傾げる。
「白希? どうかした?」
「あ、いいえ! あ……あの棚、黒くてかっこいいな、って思って」
咄嗟に答えてしまったが、嘘ではない。すると宗一さんも「ありがとう」と言って笑った。どうもオーダーメイドらしく、モダンな造りにこだわりを感じた。
「白希はモノクロが好きなのかな」
「言われてみればそうですね……白か黒が一番分かりやすいし、何でも合わせやすくて好きです」
色使いって難しい。自分に合うとも限らないし、それなら白黒のようなパキっとした感じが好きだ。

グレーがなくて、意志がはっきりしてる。ある意味宗一さんのよう。
俺も、実はそうなりたい。曖昧で逃げ腰な自分を変えたかった。



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