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火照った秘密
#14
しおりを挟む「せっかくだから海沿いを歩こう」
少し先に行ったパーキングエリアに停め、二人で外へ出た。お店が並ぶ道を抜け、砂浜に出る。さすがに海沿いは肌寒いけど、同じように散歩している人はたくさんいた。
「気持ちいい~!」
潮風を全身に受け、思わず両手を広げる。打ち寄せる波の音も、ずっと聞いていたいと思った。
「宗一さん、もっとギリギリまで近付いていいですかっ?」
「あはは。良いけど、靴がぬれないように気をつけてね。それとも、冷たいけど裸足になってみる?」
「うーん……」
周りを見渡してみたけど、裸足になってる人はいない。ちょっと興味はあるけど、ぐっと堪えた。
「今回はやめときます……! でも手だけ」
下に屈んで、波に手を伸ばす。初めて触れた海水は冷たくて、潮のにおいが一緒に流れてきた。
「これが海の臭いなんですね」
「そうだね。でも、場所によって全然違うんだ。東京の海は塩辛いけど、西の方は潮の香りなんて全然しないし、もっと透き通ってる所もある。いつかそこにも一緒に行こう」
あくまで想像になってしまうけど、これ以上に綺麗な海があるという。まだまだ知らないことばかりで、何だか無性に色々勉強したくなった。こんなすごいものを知らなかったことも悔しいし、もっともっと素晴らしい景色を見てみたい。
「海って良いよね。私は山も好きだけど、雄大な自然は全てを忘れさせてくれる。ありがちな例えだけど、自分の悩みが小さく感じるよ」
「確かに……この大きな海を見てると、そもそも自分のことを忘れてしまいます。自分が何者で、何をして生きていたのか……とか」
人に誇れない自分も、大事なものを守った自分も、まっさらにしてしまう。それほど大きな力を持った存在。それが自然。
何となく分かってる気になっていたけど、実は全然理解できてなかったんだ。俺の力も、結局は自然に働きかけるものなのに。
「宗一さん。俺、“最高”が毎日更新されていくんです」
風に揺れる髪を押さえながら、ぬれた手を軽く振る。
感動が更新されていく。辛いことや悲しいことは常に心の奥底に眠っているけど、確かに埋もれていってる。
素晴らしい景色と大切な人がいるから。
「全部貴方のおかげです」
この希望と光が、俺の生きる意味だ。
振り返って笑いかけると、彼はひと呼吸置いて一歩踏み出した。
一瞬だけ視界が奪われる。……唇も一緒に。
「嬉しいけど、その台詞そっくりそのまま返すよ」
宗一さんはコートを脱ぎ、俺の肩にかけた。
「見慣れた景色も、君がいると二倍煌びやかに見える。美しい景色なら尚さらだ。……本当に、息をするのが気持ちいい」
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