熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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火照った秘密

#13

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キャップに限らず、彼から贈られたものは全て大事な宝物だ。それを守る為なら、どんな目にでも合おう。
ぐっと拳を握ると、宗一さんは朗らかに微笑んだ。
「……ありがとう。でも、私は君さえ無事なら他は何もいらない」
逆に言えば、君になにかあったら冷静ではいられない、と話した。

それはわかる。俺も同じだからだ。
他の何が無事でも、宗一さんになにかあったら……どうにかなってしまうんじゃないか。
想像したら恐ろしくて、背筋がぞくっとした。外は温かいのに、鳥肌が立つ。パーカーの袖を伸ばしていると、また手招きされた。
「そろそろ行こうか。おいで」
「は、はい」
差し出された手をとり、白のアコードに乗り込む。シートベルトをつけると、横からサイダーを渡された。
「飲みな。少しは楽になるかも」
「わわ、ありがとうございます」
冷たくてしゅわしゅわしたものを喉に流し込むと、一気に目が覚めた。頭がスカっとして、気分もよくなる。
乗り物酔いしていたことはとっくにバレてたみたいだ。感謝と申し訳なさを抱えながら、宗一さんの長い指に視線を向けた。

綺麗な指だ。甲は男の人らしく、ごつごつと骨ばっているけど、爪の辺りは傷一つなく見惚れてしまう。
昨夜はあの手で触られたんだ。思い出したらまた恥ずかしくなって、なるべく窓の方を向いた。
万が一顔が赤くなってたら恥ずかしい。首が痛くなるぐらい窓の外を見ていると、やがて高速から下り、下道に入った。
「白希、ちょっと目を閉じて」
「えっ。あ、はい」
突然声をかけられ、反射的に瞼を伏せる。
何だろう。訳が分からぬまま待っていると、「左の方を見て」と言われた。
どきどきしながらゆっくり目を開ける。と同時に飛び込んだ景色に、思わず声を出してしまった。

「わあぁ!」

どこまでも広がる水平線。身を乗り出しても端っこが見えない、深くて鮮やかな青の世界。大きな車道の横には、テレビでしか見たことがない海があった。
「海だ! すごい!」
下手したら東京に来た時より興奮している。太陽に照らされた部分はきらきらと白んで、光の粒を散らしている。青一色に染まっているのに、空と海の境界ははっきり分かる。山しか見たことのない白希にとって、別世界とも言える景色だった。

「俺、海を見るのは初めてです!」
「ふふ、そうだと思ってね。まだ春にもならないけど連れてきちゃった。初めて見た感想は?」
「最高です!」

窓に手を当て、目の前に広がる景色に目を輝かせる。
なんて綺麗なんだろう。
地球の七十パーセントは海で占められてる。知識では知っていたけど、いまいちピンとこなかった。でも今なら少しイメージできる。
驚き過ぎて上手く言えないけど、本当にすごい。単純なもので、さっき起きたことなんて全て吹き飛んでしまった。




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