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火照った秘密
#11
しおりを挟む考えてみたら普通に有り得ることなのに、どうして思いつかなかったんだろう。子どもの頃の自分なんて、今の何百倍もそそっかしくて、見るに堪えない愚行を晒していたに決まってる。想像しただけで目眩がした。
「何度も申し訳ないんですけど、どうか忘れてください。村にいた時の俺は全てが悲惨なんです」
「私はそんな風に思ったことは一度もないんだけどね。……でも、そういうものかもね。皆が皆、過去の自分を好きとは限らないか」
そう言う宗一さんは、過去の自分を好きなんだろうか。ちょっと気になったけど、急に腰を引き寄せられてバランスを崩した。
「わわっ……」
「さて。踊りも見せてくれないということだし、お姫様をさらって何処か行こうかな」
宗一さんはサングラスをかけ、車のキーをとった。
「お出掛けですか?」
「そう。またの名をデート」
あくまでそういうことらしい。意識させようという魂胆が見え見えだ。
でも、外へ行くのは素直に嬉しい。少し厚手のジャケットを羽織ると、キャップも頭に被せられた。
「白希もサングラスがあったら良いけど、顔が小さいからねえ。今度ちゃんと作りに行こうか」
「俺は大丈夫ですよ! 帽子があれば日除けになります」
それに、サングラスは似合う人と似合わない人がいる。彼はさまになるけど、自分が掛けたら不格好になるだけだ。
車に乗り、シートベルトを閉める。
今日もすごく良い天気だ。窓を開けていいか尋ねると、彼は自動で助手席の窓を開けてくれた。
風を切る音が強くなる。高速に入ってからは窓を閉め、ひたすら前を見ていた。時々隣を盗み見しながら、キャップを握り締める。
結構遠くに行くんだなぁ……。
もう、走り出してから一時間以上経つ。何となく行き先を訊くのは憚られた。宗一さんは楽しそうに運転してるし、俺は俺で、少し酔いそうになったからだ。
具合が悪いなんて言ったら、秒速で帰ることになりそう。せっかく彼と出掛けられたんだから、一秒でも長く外に居たかった。
「あ、サービスエリアで休憩して行こうか」
た、助かった……。
「運転お疲れ様です。すみません、俺ちょっと先にトイレに行かせていただきます……!」
少し首がガクガク揺れてしまったけど、駐車場に着いてすぐ、足早にトイレへ向かった。
胃の中のものを全て戻すという最悪の事態は防げたけど、宗一さんより先に入ってしまったから、外へ出てひとりになった。
はぁ~、すごい。
たくさんの車と、行き交う人々。大きなモニュメントや出店、キッチンカーが並んでいる。初めてのサービスエリアは街中とは違う賑やかさがあった。
「いてっ!」
「あ! 申し訳ありません」
ぼうっと突っ立ってしまっていたせいで、前から来た男性とぶつかってしまった。四十代ぐらいだろうか。彼はこちらを見て、急に声を荒げた。
「ちゃんと周り見てんのか? もう少しでスマホ落とすところだったぞ」
「あ、それは……本当に申し訳ありません」
スマホは本当に高いし、大事なデータがたくさん入ってるから怒るのも無理ない。
頭を下げて謝るものの、彼の怒りはおさまりそうになかった。
「謝るだけなら猿でもできんだよ!」
「お、仰る通りです」
それにしても怒り過ぎな気が……。どうしたら怒りをといてくれるか考えていると、ふと妙な臭いを感じた。
これは何だっけ。ええと確か……。
「もし本当に悪いと思ってんなら、ちょっと付き合いな。そこのトイレにでも……」
肩に腕を乗せられる。距離が縮まって確信した。……お酒の臭いだ。
「あの……」
これは訳が違う気がして、さりげなく離れようとした。ところがキャップを取られ、慌てて振り返る。
「よく見たら綺麗な顔してるじゃんか」
「そ……れは、返してください……!」
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