熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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火照った秘密

#10

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突破な話ばかり飛び出すのに、夢中で姿を追いかけてる。いつだって数歩先の位置で、自分を引っ張ってくれる。

「俺も、まずは宗一さんと過ごす時間を大事にしたいです。特別な場所に行かなくていいから、この幸せな日常に浸っていたい」

遠慮がちに答えると、少々強めに頭を撫でられた。
「はぁ~。白希は本当に謙虚だねえ。……でも、それぐらい今の生活を気に入ってくれてる。って風に受け取っていいのかな?」
「はい。もうこの上なく」
彼の目を見て、即答した。跳ねた髪を丁寧になおしながら、宗一さんは俺の手をとり、自分の方へ引っ張った。
「光栄だ。……そうそう、話は変わるけど、ひとつ見せたいものがあった」
おいで、と手招きされ、普段はあまり入らない書斎へお邪魔する。
整頓された本棚が並ぶ中、妙に長い薄型の箱が置かれていた。

「これは?」
「君のものだよ。開けてみて」

戸惑いはしたが、ゆっくり蓋を開けてみる。そこには、見覚えのある紅色の羽織りが入っていた。
「こ、これ……てっきり燃えたと思ってました! 一緒に持ってきてくださったんですか?」
「そう。確かに少し傷んでしまったから、補修してもらってたんだ。一昨日受け取ったんだけど、君に伝えるのを忘れてた」
「ありがとうございます……! 触ってもいいですか?」
「もちろん。君のなんだから」
優しい笑顔を受け、頭を下げながら羽織りに触れる。
まるで太陽の下にあるように、美しく輝く生地。間違いなく、あの家で祖母から譲り受けたものだ。

「補修費すごかったでしょう。申し訳ありません……」
「それはいいから。いや、毎回気にしてくれるのは嬉しいんだけどね。これが唯一持ち出せた君のものだから、何とか直そうと思ったんだ」

立ち上がり、羽織りを持った白希に、宗一は耳元で囁く。
「良かったら、これを着て舞ってみてくれない?」
「ええ!? いえ、それはちょっと……」
「恥ずかしがらなくてもいいだろう? 昔は祭事の度にやってたじゃないか」
「あれは仕方なく……というか宗一さん、もしかして俺の演目を見たことあるんですか?」
途端に背筋がひやっとした。
もうずっと昔のことだけど、村の伝統舞踊を継承する為祭りごとでは人前で舞踊する機会も多々あった。その時は大勢の村人が見に来ていたし、自分が気付かなかっただけで宗一さんもいたのかもしれない。

怖々返答を待ってると、彼はわざとらしく肩を竦めた。
「いいや。ちゃんとは見たことない」
「ちゃんと、ってことは、ちょっとは見たことあるんですね?」
「さぁ、どうだろ。なにぶん昔のことだからね」
彼はすっとぼけているが、これは間違いなく見ている。

初めて会った日から初対面らしかぬ言動をしていたのは、このせいだ。俺は宗一さんの姿を見たことはないけど、宗一さんは俺をどこかで見ていたんだ。




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