熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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火照った秘密

#9

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いつも通りの朝と言うには、まだ少し戸惑いがある。
でも自分を取り巻く環境は確実に変化していた。ふかふかの枕、純白の天井、あたたかい手が、少しずつ身近なものに変わっていく感覚。
大好きな人の寝息と、温もり。これを感じ取れることが一番大きい。

「……っと」

隣で寝ている宗一さんを起こさないよう、そっと布団から這い出る。
無事に脱出成功したが、全裸の為、急いで端に寄せていた寝巻きを羽織った。最中は気持ちが舞い上がってるからいいけど、翌朝の背徳感は言葉にできない。

昨夜は過去一濃かった……。
顔を洗い、軽くリビングの換気をする。服も着替えて、珈琲の準備をした。
合間に掃除をしながら、テレビをつけて朝のニュースに流す。
パンをトースターに入れたところで、眠そうな宗一さんが起きてきた。
「おはよう、白希」
「おはようございます!」
近くまで寄ると、彼は薄目を開けて微笑んだ。

「白希は朝が強いね。私はまだ眠たいよ」
「俺は毎日そんなに動いてませんから。……眠かったら、もう少し寝ますか?」

今日は宗一の貴重な休日だ。休みの日ぐらい遅くまで寝てたいかもしれない。首を傾げて尋ねると、彼はトースターのタイマーをセットした。
「いいや。せっかく一日君と過ごせるんだし、もったいないから起きてる」
「あはは。ありがとうございます」
本当に眠そうだったけど、朝食にし、珈琲を飲むといつもの甘い彼に戻った。

「ふぅ! 白希、今日はどうする? 行きたいところとかはない?」
「行きたいところですか? いえ、特に……」

食器の片付けや洗濯を終え、ソファで寛いでると彼は物言いたげな表情を浮かべた。というか、もう隠しもせず堂々と言い放った。

「何にもないかい? 例えば結婚式場を見に行きたいとか、夫婦生活を始める為の新居を探したいとか」

危うくお茶を吹き出すところだった。いや、気持ちは分からなくもないけど。
「宗一さん、その……それはゆっくり探しましょう。身辺整理も大事だけど、まず宗一さんのご両親にご挨拶もしてないし」
「それは何ら問題ないよ。もう了承は得てる。相手が君ということも既に伝えてある」
「えっ? でも、前は俺とあまり関わらない方が良いって仰っていたんじゃ」
宗一さんのお父様は、春日美村そのものを嫌っている。村の出身である自分が一人息子と結婚なんて、猛反対するとしか思えないけど。

「あくまで愛想をつかしてるのは村に対して。父も私と同じ考えなんだよ。君はあの村の仕来りで幽閉された、ただの被害者だ」

わずかに語尾を強め、宗一さんは腰を浮かした。
「子どもに関しては、どうしてもと言うなら養子をとるということで承諾した。いいかな?」
「子ども……? 俺自身、まだ大人とも言いきれないのに……子どもなんて育てられますかね……?」
青ざめながら呟く白希に、宗一は楽天的に笑ってみせた。
「それこそずっと未来の話さ。私もまだそこまで考えてないし、考えられない。それより君とどこへ遊びに行こうか、……そればかり考えてる」
「……」
下から長駆を見上げ、透き通った声に耳を傾ける。
何でこの人の話は、無意識に聞き入ってしまうんだろう。



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