81 / 196
火照った秘密
#9
しおりを挟むいつも通りの朝と言うには、まだ少し戸惑いがある。
でも自分を取り巻く環境は確実に変化していた。ふかふかの枕、純白の天井、あたたかい手が、少しずつ身近なものに変わっていく感覚。
大好きな人の寝息と、温もり。これを感じ取れることが一番大きい。
「……っと」
隣で寝ている宗一さんを起こさないよう、そっと布団から這い出る。
無事に脱出成功したが、全裸の為、急いで端に寄せていた寝巻きを羽織った。最中は気持ちが舞い上がってるからいいけど、翌朝の背徳感は言葉にできない。
昨夜は過去一濃かった……。
顔を洗い、軽くリビングの換気をする。服も着替えて、珈琲の準備をした。
合間に掃除をしながら、テレビをつけて朝のニュースに流す。
パンをトースターに入れたところで、眠そうな宗一さんが起きてきた。
「おはよう、白希」
「おはようございます!」
近くまで寄ると、彼は薄目を開けて微笑んだ。
「白希は朝が強いね。私はまだ眠たいよ」
「俺は毎日そんなに動いてませんから。……眠かったら、もう少し寝ますか?」
今日は宗一の貴重な休日だ。休みの日ぐらい遅くまで寝てたいかもしれない。首を傾げて尋ねると、彼はトースターのタイマーをセットした。
「いいや。せっかく一日君と過ごせるんだし、もったいないから起きてる」
「あはは。ありがとうございます」
本当に眠そうだったけど、朝食にし、珈琲を飲むといつもの甘い彼に戻った。
「ふぅ! 白希、今日はどうする? 行きたいところとかはない?」
「行きたいところですか? いえ、特に……」
食器の片付けや洗濯を終え、ソファで寛いでると彼は物言いたげな表情を浮かべた。というか、もう隠しもせず堂々と言い放った。
「何にもないかい? 例えば結婚式場を見に行きたいとか、夫婦生活を始める為の新居を探したいとか」
危うくお茶を吹き出すところだった。いや、気持ちは分からなくもないけど。
「宗一さん、その……それはゆっくり探しましょう。身辺整理も大事だけど、まず宗一さんのご両親にご挨拶もしてないし」
「それは何ら問題ないよ。もう了承は得てる。相手が君ということも既に伝えてある」
「えっ? でも、前は俺とあまり関わらない方が良いって仰っていたんじゃ」
宗一さんのお父様は、春日美村そのものを嫌っている。村の出身である自分が一人息子と結婚なんて、猛反対するとしか思えないけど。
「あくまで愛想をつかしてるのは村に対して。父も私と同じ考えなんだよ。君はあの村の仕来りで幽閉された、ただの被害者だ」
わずかに語尾を強め、宗一さんは腰を浮かした。
「子どもに関しては、どうしてもと言うなら養子をとるということで承諾した。いいかな?」
「子ども……? 俺自身、まだ大人とも言いきれないのに……子どもなんて育てられますかね……?」
青ざめながら呟く白希に、宗一は楽天的に笑ってみせた。
「それこそずっと未来の話さ。私もまだそこまで考えてないし、考えられない。それより君とどこへ遊びに行こうか、……そればかり考えてる」
「……」
下から長駆を見上げ、透き通った声に耳を傾ける。
何でこの人の話は、無意識に聞き入ってしまうんだろう。
22
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説


龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる