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火照った秘密
#8
しおりを挟む汗でぬれた髪を軽く持ち上げ、宗一さんは首筋を甘噛みした。
「大丈夫ですよ。俺、宗一さんのおかげで結構体力つきましたもん」
「うーん、事情が事情なだけに手放しで喜べないけど……」
宗一さんは口元を押さえ、俺を抱き起こす。
「……最高な夜がまた更新された。ありがとう、白希」
大きな掌が、俺の熱と、形を確かめる。これはきっと朝まで続く。
「お礼を言うのは俺の方です」
膝立ちし、彼の唇を塞いだ。
「宗一さんといると、幸せになろう、って本気で思えます。ちょっと前の俺なら、そんなこと考えもしなかった」
左手の薬指をそっと撫でながら、彼の前に正座する。
「でも俺ひとりではなくて……絶対、貴方と一緒に幸せになりたい」
「……うん」
世界から外れて生きていた自分と、自ら世界を遠ざけていた彼。対象的な生き方をしていたはずなのに、どうしようもなく惹かれ合った。
もし本当に神様がいるなら、彼と会わせてくれたことにお礼を言いたい。
「私は生涯にわたって君を愛すと誓う」
白いシーツが一斉に宙に舞い上がる。途端に真っ白な布に四方を覆われ、別世界のような景色に狼狽えた。
最初は窓から風が入ってきたのかと思ったけど、そうじゃない。宗一さんの力だ。
シーツの波が自分達を包み込む。まるで空に浮いているような錯覚がした。いつまでも浮かび上がって、落ちない白に手を伸ばす。
「君が私に熱い愛をたくさん届けてくれたようにね」
「……っ」
上手く言えないけど、胸の中が猛烈に熱くなった。
気が付いたら前に傾き、……彼の胸に飛び込んでいた。
以前の自分なら絶対にできなかったことが、毎日一つずつ増えている。その感動を与えてくれたのは宗一さんだ。
「宗一さん。あの、そのっ……あっ」
「あ?」
「あっ……愛してます!」
情けないけど、最後の方は声が震えてしまった。
でも、今度こそ告げた。それなりに大きい声で、はっかりと。
顔を真っ赤にして硬直する白希に、宗一は再び肩を揺らして笑った。
「ごめんごめん……! 良い意味で笑ってるんだよ。あの迷子の子犬みたいな白希が頑張ってるなぁと思ったら、もう微笑ましくて」
「う……! 心配しなくても、もう何回でも言えますよ。本当に想ってることですから!」
嘘。本当はすっごい恥ずかしい。
でも妙な意地が働いて、強い口調で言い切った。
「俺も、この先何があっても貴方を愛すると誓います!」
この前に見たドラマの受け売りになってしまったが、大胆不敵なプロポーズを突きつけた。
宗一さんは微笑みこそ消さなかったけど、ゆっくり頷き、周りに浮かんだスーツを静かに降ろした。最後に落ちてきた一枚を受け止め、俺の頭の上に被せる。
「ここに神父がいたら、誓いのキスを言い渡すだろうね」
「ははっ。ちょうどシーツも真っ白ですもんね」
まるでごっこ遊びだ。子どもみたいだけど、それが最高に楽しくて、彼と一緒に笑った。
もう既に幸せだから、これ以上の幸せを手に入れたらおかしくなってしまう気がする。
そう言うと、彼は「それでいいよ」、と答えた。
「私も同じだ」
彼の鮮やかな瞳に、自分の顔が映る。
呆れてしまうほど希望に満ちて、彼に惚れてる自分がいる。
自覚したところで変われる気もしない。やっぱり俺は、この人が大好きなんだ。
嬉しいことばかりだ。
怖いことしかなかった夜が、彼と出逢ってからは何物にも代えがたい、大切な思い出になっていく。
この夜も鍵つきの宝箱にそっと仕舞った。いつか心が揺れそうになったとき、すぐに取り出せるように。
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