74 / 196
火照った秘密
#2
しおりを挟む宗一さんが、俺の中に入ってくる。彼の汗が頬に伝う。世界の色が変わる。
この痛みも、快感も、温もりも、全て自分を形づくる材料になる。
「生きてる感じがするんだ」
繋がったまま、ぎゅっと抱き締められる。
「君と触れ合ってる時が一番、自分という人間を自覚する。今まではまるで他人の人生を眺めていたみたいだったのに」
「……!」
彼の言葉に息を飲む。俺も同じだったから。
宗一さんと互いの熱を交換している時が、本当に生きてると思える。
何の為に生まれてきたのか、何百回も自問自答する日々。大人になって、ようやく答えを見つけた。
俺はこの人と一緒になる為に生きていたんだ。
重なった掌から、宗一さんの想いが流れ込んでくる。
「あ……」
今までは全然分からなかったけど、やっと彼が言っていた意味が分かった。心音が重なり、呼吸のペースが重なるほど、宗一さんの喜びや高陽が伝わる。
今、彼は心の隅々まで満たされている。俺の中に満ちていくこの幸福感は、間違いなく彼のものだ。
一体どういう仕組みなんだろう……。力が反発するのではなく、むしろ引き寄せ合ってるようにも感じる。
好きで好きで仕方ない。これ以上ないほど幸せ。
「ちょ……宗一さん。あの……」
「うん?」
まずい。これはかなりまずい。
さりげなく手を離そうとしたが、彼はしっかり手を握り、中々離してくれない。
このままだと羞恥心で頭がショートしそうだ。
「あのですね。驚かないで聞いてほしいんですけど、……宗一さんの気持ちが俺にも伝わってまして」
「お、やっとか。私はずっと昔から感じていたけど」
彼がそう返した時、彼の記憶と新しい感情が流れ込んできた。
“────可愛らしい字だ”。
「……?」
目を開けているのに、なにかの映像が目前に重なる。
誰だろう。知らない男の人の手が、白い便箋を開いている。
どこかの大きな会議室で、ひとり文字を指で追っている。
“どうして突然こんな手紙を送ってきたんだろう?”
彼はそう思い、便箋を丁寧に折り畳んだ。その角に、一瞬だけ差出人の名前が見えた。
余川白希。
「……!!」
俺の名前だ。俺は今、宗一さんの記憶を垣間見ている。
夢じゃない。何なら最大限現実を体感してる、夜の営みの最中だっていうのに。
心臓が破裂しそうなドキドキを覚えながら、記憶の続きに意識を傾ける。
宗一さんのとめどない思考が、波のように押し寄せた。
“この子のことは知ってる。直忠の弟だ”。
“余川さんの家に近付かないよう言われてるから話したことはないけど……”
“屋敷の中でたまたま見たことがある。綺麗な男の子だと思った”
すごく繊細で、ささいな思考まで読み取れる。
感心しつつも戦慄した。凄すぎる。これ、逆に俺の記憶や思考も彼に筒抜けだったってことだよな……?
22
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる