熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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火照った秘密

#2

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宗一さんが、俺の中に入ってくる。彼の汗が頬に伝う。世界の色が変わる。

この痛みも、快感も、温もりも、全て自分を形づくる材料になる。

「生きてる感じがするんだ」

繋がったまま、ぎゅっと抱き締められる。
「君と触れ合ってる時が一番、自分という人間を自覚する。今まではまるで他人の人生を眺めていたみたいだったのに」
「……!」
彼の言葉に息を飲む。俺も同じだったから。

宗一さんと互いの熱を交換している時が、本当に生きてると思える。
何の為に生まれてきたのか、何百回も自問自答する日々。大人になって、ようやく答えを見つけた。

俺はこの人と一緒になる為に生きていたんだ。

重なった掌から、宗一さんの想いが流れ込んでくる。

「あ……」

今までは全然分からなかったけど、やっと彼が言っていた意味が分かった。心音が重なり、呼吸のペースが重なるほど、宗一さんの喜びや高陽が伝わる。
今、彼は心の隅々まで満たされている。俺の中に満ちていくこの幸福感は、間違いなく彼のものだ。

一体どういう仕組みなんだろう……。力が反発するのではなく、むしろ引き寄せ合ってるようにも感じる。
好きで好きで仕方ない。これ以上ないほど幸せ。
「ちょ……宗一さん。あの……」
「うん?」
まずい。これはかなりまずい。
さりげなく手を離そうとしたが、彼はしっかり手を握り、中々離してくれない。

このままだと羞恥心で頭がショートしそうだ。
「あのですね。驚かないで聞いてほしいんですけど、……宗一さんの気持ちが俺にも伝わってまして」
「お、やっとか。私はずっと昔から感じていたけど」
彼がそう返した時、彼の記憶と新しい感情が流れ込んできた。

“────可愛らしい字だ”。

「……?」

目を開けているのに、なにかの映像が目前に重なる。
誰だろう。知らない男の人の手が、白い便箋を開いている。
どこかの大きな会議室で、ひとり文字を指で追っている。

“どうして突然こんな手紙を送ってきたんだろう?”
彼はそう思い、便箋を丁寧に折り畳んだ。その角に、一瞬だけ差出人の名前が見えた。

余川白希。

「……!!」

俺の名前だ。俺は今、宗一さんの記憶を垣間見ている。
夢じゃない。何なら最大限現実を体感してる、夜の営みの最中だっていうのに。
心臓が破裂しそうなドキドキを覚えながら、記憶の続きに意識を傾ける。
宗一さんのとめどない思考が、波のように押し寄せた。

“この子のことは知ってる。直忠の弟だ”。
“余川さんの家に近付かないよう言われてるから話したことはないけど……”
“屋敷の中でたまたま見たことがある。綺麗な男の子だと思った”

すごく繊細で、ささいな思考まで読み取れる。
感心しつつも戦慄した。凄すぎる。これ、逆に俺の記憶や思考も彼に筒抜けだったってことだよな……?




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