熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
73 / 196
火照った秘密

#1

しおりを挟む


笑って答えると、彼は嬉しそうに頷き、多めの一口を食べた。
「白希は他にしたいことはない?」
「と、言いますと?」
「習いたいこととか、やってみたいこととか。……住所を移したばかりだけど、住む場所を変える、という選択肢もある」
宗一さんはスプーンを置き、行儀悪くも頬杖をついた。
「正直、この立地は白希にはあまり向いてないんじゃないかと思ってね」
「そ、それは……住む場所を新しく探してほしい、ということですか?」
青い顔で答えると、彼は慌てて手を振った。
「すぐじゃないし、その時はもちろん私も一緒だからね? 君だけどこかへ引っ越すって意味ではないよ」
「ああ、良かった……。いえ、そうなったら受け入れるんですけど……やっと、宗一さんのお手伝いができて嬉しく思ってたから」
やってることは誰でもできる家事ばかりだけど。
俯いて顔を赤くすると、また頭を撫でられた。

緩やかに時間が流れていく。
特別やりたいことはない。本当に、彼と一緒にいられるならそれだけで充分なんだ。

ただ、現実は色々あるもので。



「わぁっ!」

食後、歯を磨いて部屋に戻ろうとすると、途端に視界が上昇した。
理由はひとつ。宗一さんが俺の体を軽くし、また横向きに抱き上げたからだ。
「宗一さん?」
「明日はお休みだし、今夜は私の部屋で寝よう。ねっ?」
とても素敵な笑顔を浮かべる彼は、少し異様なオーラを放っている。

もしかして、かなり我慢してるんだろうか。最近ちょっとご無沙汰だったから。
嫌な汗をだらだら流していると、案の定部屋に入るなりベッドに押し倒された。
「宗一さん、ちょっと待って……!」
「良い香り。もうお風呂入ったんだ?」
強い力で抱き締められ、手足をばたつかせる。
やっぱり、夜の営みだ。気持ちいいって分かってるけど、最初はやっぱり抵抗してしまう。
だって恥ずかしいし。

「最近、私が触れない時もちゃんとひとりでシてた?」

ゆっくりとベルトを引き抜かれ、チャックを下ろされる。
彼の言動も行動も恥ずかしくて、思わず口端を引き結んだ。

「やらな過ぎも駄目、って約束したでしょ」
「そ……そういうことは心配しないでください。俺ももう大人ですから……っ」

顔を横に逸らしたまま、勇気を出して答える。すると彼は薄く笑い、ズボンを引き下げた。
「あっ!」
「じゃあ、大人らしく誘ってもらおうかな」
履き替えたばかりの下着。でも、顔を近付けられるのは緊張する。そこは触れてなくても勝手に持ち上がって、ぬれてしまうからだ。

彼に触ってもらえると思っただけで、全身が震える。
誘うなんて高等技術、俺にはやっぱり無理だ。
「や……宗一さん、俺……っ」
「何?」
「ごめんなさい。その……やっぱり、苦しい……です」
シャツを引き上げ、下着に手をかけた。
堪え性のないこの体が嫌いだ。でも、彼に触ってもらえないとおかしくなりそう。

涙でぬれた瞳で見上げると、宗一は微笑みを崩さぬまま、白希の口に指を入れた。
「大丈夫。たくさん愛するから」
白希の下着を足首まで下ろし、たっぷりぬれた指を尻の割れ目に宛てがう。
「力を抜いて。私を見なさい」
ぐ、と指に力が込められる。後退ろうとしたが、それより先に中を擦られる。

脚を投げ出し、白希は甲高い声を上げた。
始まる。今夜も、あの濃くて長くて、……甘い夜が。

彼がゴムの袋を噛みちぎるさまを見ながら、これから起こることを想像する。
明日の朝、自分はどうなってるだろう。今から恐ろしくて身震いするが、内心期待してる自分もいる。
「……白希?」
顔を手で必死に隠してると、掴まれで簡単に離された。
「俺、自分がこんな人間だったなんて……全然知りませんでした」
触れてる部分も吐き出す息も全部熱くて、とけてしまいそう。
「宗一さんを独り占めできる夜さえあれば、ほんとのほんとに、何も要らないなって……」
生理的な涙を零しながら、彼の腕にすがりつく。必死の想いで彼の動きに合わせていたけど、息を奪う激しいキスが始まった。
「ん……ふっ……!」
気持ちいい。胸をいじる手も、全身をくまなく愛撫する舌も。……注がれる熱い視線も、今は自分が独占している。

欲望ばかり高まってしまう。

「もっとだ。もっと私を求めて、本能のまま動いてくれ、白希」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...