熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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植え替え

#27

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顔を上げようとしたけど、それより強い力で押さえられて動けない。だから彼の胸に抱かれたまま、囁くような声を聞いていた。
「うーん。ごめん、やっぱり何でもない」
「ちょっ! そこまで言ったら言ってください!」
どきどきしながら待っていたのに、彼は頭が痛そうに後ろへ倒れた。おかげでバランスを崩し、こちらまでソファに倒れる。

「君が傷つくかもしれないことは言いたくないんだ」
「……」

宗一さんは片手で自分の顔を隠し、小さく呟いた。
俺にとって悪い話なのは間違いない。でも、そんなのどうでもよかった。何も知らない方が落ち着かないし、……宗一さんにだけ重いものを背負わせるのは耐えられない。

「教えてください、宗一さん。俺は大丈夫ですから」

動けないけど、何とか手だけ動かした。彼の空いてる片手を握り、静かに言葉を紡ぐ。
「これからはどんなことも共有しましょうよ。嬉しいことも悲しいことも、半分こしましょう。俺は十年近く何も経験してこなかったので、良い目覚ましになります」
そう言うと、彼は心配そうに起き上がった。
「いや、正直すごく心配だよ。白希はピュアだから……」
「あはは。実は真っ黒ですよ」
前髪を適当に流し、彼に顔を近付ける。

「誰とも関わらずに引き篭ってた人間が、綺麗な心を保てるわけありません。本当の俺は、きっとすごく汚いんです」

自身の胸に手を当て、シャツごと握り締める。
そうだ。実際、俺だってたくさん呪った。力を持って生まれたことはもちろん、力を制御できない自分も。

当然、この世界も。

「子どもの頃と違って、もう自分が傷つくのは怖くない。でも宗一さんがひとりで苦しむのは嫌なんです」
「白希……」

この、暗くて酷い世界を塗り替えてくれた人。彼が辛い思いをすることだけは絶対に嫌だ。
しばらくの間無言で見つめ合った。やがて、彼は降参と言わんばかりに両手を上げた。

「わかったよ。君は本当に強いね」

粘った甲斐はあった。黙って頷き、彼の口が開くのを見守る。
宗一さんは、ソファに手をついた。

「この力は二十歳を迎えるまでに制御しないといけない。もし制御できなければ、その者は家族や村人全員に災厄をもたらす。……そんな馬鹿げた迷信があるんだ」

なるほど。
やっと腑に落ちた。他人事じゃないから、村の人達は二十歳になった俺を見つけ出したいんだ。

「こんなタチの悪い迷信、一体誰が言い出したのか。文献にもないから分からないけど、真に受ける方もどうかしてる」
「ま、まぁ……閉鎖的な村ですからね。子どもの頃から聞かされていたら、信じるのも無理はありません」

自分の手のひらを見つめ、冷静に返した。
何も驚くことはない。この力が存在していることが既に異常なんだから、異常な言い伝えが何個出てきても、仕方ないと思える。
「つまり皆さん、俺を見つけ出して始末したい。ってことですよね?」
「始末って……白希、どこでそんな物騒な言葉を覚えたんだい」
本気で心配している宗一さんには悪いけど、可笑しくて笑ってしまった。
「この前配信されてたイタリアのマフィアの映画で学びました。とても面白かったんですよ」
「それって銃をパンパン撃つ内容だよね。白希にはまだ早いよ、次は見ちゃ駄目」
「そんな……!」
残酷過ぎる言葉に絶望しつつ、慌てて咳払いする。

「そ、それはさておき。俺は、村にいる人の不安はもっともだと思います」
「……怖くないのかい?」
彼の問い掛けに、首を横に振った。
「むしろすっきりしてますよ。でも、心配かけてごめんなさい。……これは俺の問題だから宗一さんが悩むことじゃないのに」





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