69 / 196
植え替え
#27
しおりを挟む顔を上げようとしたけど、それより強い力で押さえられて動けない。だから彼の胸に抱かれたまま、囁くような声を聞いていた。
「うーん。ごめん、やっぱり何でもない」
「ちょっ! そこまで言ったら言ってください!」
どきどきしながら待っていたのに、彼は頭が痛そうに後ろへ倒れた。おかげでバランスを崩し、こちらまでソファに倒れる。
「君が傷つくかもしれないことは言いたくないんだ」
「……」
宗一さんは片手で自分の顔を隠し、小さく呟いた。
俺にとって悪い話なのは間違いない。でも、そんなのどうでもよかった。何も知らない方が落ち着かないし、……宗一さんにだけ重いものを背負わせるのは耐えられない。
「教えてください、宗一さん。俺は大丈夫ですから」
動けないけど、何とか手だけ動かした。彼の空いてる片手を握り、静かに言葉を紡ぐ。
「これからはどんなことも共有しましょうよ。嬉しいことも悲しいことも、半分こしましょう。俺は十年近く何も経験してこなかったので、良い目覚ましになります」
そう言うと、彼は心配そうに起き上がった。
「いや、正直すごく心配だよ。白希はピュアだから……」
「あはは。実は真っ黒ですよ」
前髪を適当に流し、彼に顔を近付ける。
「誰とも関わらずに引き篭ってた人間が、綺麗な心を保てるわけありません。本当の俺は、きっとすごく汚いんです」
自身の胸に手を当て、シャツごと握り締める。
そうだ。実際、俺だってたくさん呪った。力を持って生まれたことはもちろん、力を制御できない自分も。
当然、この世界も。
「子どもの頃と違って、もう自分が傷つくのは怖くない。でも宗一さんがひとりで苦しむのは嫌なんです」
「白希……」
この、暗くて酷い世界を塗り替えてくれた人。彼が辛い思いをすることだけは絶対に嫌だ。
しばらくの間無言で見つめ合った。やがて、彼は降参と言わんばかりに両手を上げた。
「わかったよ。君は本当に強いね」
粘った甲斐はあった。黙って頷き、彼の口が開くのを見守る。
宗一さんは、ソファに手をついた。
「この力は二十歳を迎えるまでに制御しないといけない。もし制御できなければ、その者は家族や村人全員に災厄をもたらす。……そんな馬鹿げた迷信があるんだ」
なるほど。
やっと腑に落ちた。他人事じゃないから、村の人達は二十歳になった俺を見つけ出したいんだ。
「こんなタチの悪い迷信、一体誰が言い出したのか。文献にもないから分からないけど、真に受ける方もどうかしてる」
「ま、まぁ……閉鎖的な村ですからね。子どもの頃から聞かされていたら、信じるのも無理はありません」
自分の手のひらを見つめ、冷静に返した。
何も驚くことはない。この力が存在していることが既に異常なんだから、異常な言い伝えが何個出てきても、仕方ないと思える。
「つまり皆さん、俺を見つけ出して始末したい。ってことですよね?」
「始末って……白希、どこでそんな物騒な言葉を覚えたんだい」
本気で心配している宗一さんには悪いけど、可笑しくて笑ってしまった。
「この前配信されてたイタリアのマフィアの映画で学びました。とても面白かったんですよ」
「それって銃をパンパン撃つ内容だよね。白希にはまだ早いよ、次は見ちゃ駄目」
「そんな……!」
残酷過ぎる言葉に絶望しつつ、慌てて咳払いする。
「そ、それはさておき。俺は、村にいる人の不安はもっともだと思います」
「……怖くないのかい?」
彼の問い掛けに、首を横に振った。
「むしろすっきりしてますよ。でも、心配かけてごめんなさい。……これは俺の問題だから宗一さんが悩むことじゃないのに」
22
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる