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植え替え
#26
しおりを挟む村では暗黙の了解となっていたけど、この力を持つ者は恐れられる。
だからこそ早くコントロールしなくてはいけない。それでも中々力を制御できない自分に危険を感じ、母は宗一さんの家にいち早くSOSを出したんだ。
同じ力を持つ宗一さんと関われば、力の使い方を教えてもらえるんじゃないか……と。
けど結局、俺と宗一さんが会うことはなかった。
「君が手紙を書くのと同じタイミングで、私は村を出たからね。……父にも、もう二度と春日美村には戻らないようきつく言われていた。その言いつけを破って何度か君の家に伺ったんだけど、村が祟られるからと会わせてもらえなかった」
「え。祟り……?」
物騒な響きに顔を上げると、彼は手を振った。
「同じ力を持つ者同士が関わると村の均衡が破られる、と周りに止められたんだ。たくさんある迷信のひとつに過ぎないけどね。均衡が破られたから何なんだって話だし」
また頬を指でつつかれる。今度はよろけなかったけど、コップを持つ手が滑りそうになった。
それに気付いた宗一さんが、俺の手を上から握る。
「だから、迷信や仕来りのように、見えないものに心を掻き乱されてはいけないよ。村の人達が本当に恐れてるのはこの力じゃなくて、変化なんだ」
「変化……」
「そう。力を持つ私が村を出たのも、白希が力の制御に苦心したのも、彼らからすれば全てイレギュラーなこと」
過去にない行動を起こせば、悪いことが起きると本気で信じている。不測の事態が起きることを何よりも嫌う人達なのだと、彼は顰めっ面で零した。
思い返せば、神様は祀らないのに呪いや祟りは信じる村だった。常に周りを気にして、模範から外れた人を追いやる。宗一さんのお父様は、疑心的な彼らに嫌気がさしたのかもしれない。
もし俺が力を持たずに生まれたとしても……きっと、あそこで生きていくのは息苦しかっただろう。
「宗一さんは、村を出てから困ったことはありませんでしたか?」
「私は力を自分のものにしてから出て行ったから……向こうが干渉してくることはなかったよ」
ただ、君は違う。
宗一さんは切れ長の目をさらに細め、語調を強めた。
「ご両親が君を外に出さなかったことで、力を制御できてないことが村全体に知られてしまったんだ」
「あの、前も思ったんですけど……俺が力を制御できてないことを、村の人達に知られるとなにかまずいんですか?」
同じ家に住む家族が気にするのは当然だが、村人達はあくまで他人だ。なのに何故、自分や宗一に干渉しようとするのか、そこが分からない。
固唾を呑んで待っていると、急に抱き寄せられた。咄嗟のことに反応できず、彼の胸に倒れ込む。
「宗一さん?」
「……本当にくだらない迷信、なんだけどね」
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