68 / 196
植え替え
#26
しおりを挟む村では暗黙の了解となっていたけど、この力を持つ者は恐れられる。
だからこそ早くコントロールしなくてはいけない。それでも中々力を制御できない自分に危険を感じ、母は宗一さんの家にいち早くSOSを出したんだ。
同じ力を持つ宗一さんと関われば、力の使い方を教えてもらえるんじゃないか……と。
けど結局、俺と宗一さんが会うことはなかった。
「君が手紙を書くのと同じタイミングで、私は村を出たからね。……父にも、もう二度と春日美村には戻らないようきつく言われていた。その言いつけを破って何度か君の家に伺ったんだけど、村が祟られるからと会わせてもらえなかった」
「え。祟り……?」
物騒な響きに顔を上げると、彼は手を振った。
「同じ力を持つ者同士が関わると村の均衡が破られる、と周りに止められたんだ。たくさんある迷信のひとつに過ぎないけどね。均衡が破られたから何なんだって話だし」
また頬を指でつつかれる。今度はよろけなかったけど、コップを持つ手が滑りそうになった。
それに気付いた宗一さんが、俺の手を上から握る。
「だから、迷信や仕来りのように、見えないものに心を掻き乱されてはいけないよ。村の人達が本当に恐れてるのはこの力じゃなくて、変化なんだ」
「変化……」
「そう。力を持つ私が村を出たのも、白希が力の制御に苦心したのも、彼らからすれば全てイレギュラーなこと」
過去にない行動を起こせば、悪いことが起きると本気で信じている。不測の事態が起きることを何よりも嫌う人達なのだと、彼は顰めっ面で零した。
思い返せば、神様は祀らないのに呪いや祟りは信じる村だった。常に周りを気にして、模範から外れた人を追いやる。宗一さんのお父様は、疑心的な彼らに嫌気がさしたのかもしれない。
もし俺が力を持たずに生まれたとしても……きっと、あそこで生きていくのは息苦しかっただろう。
「宗一さんは、村を出てから困ったことはありませんでしたか?」
「私は力を自分のものにしてから出て行ったから……向こうが干渉してくることはなかったよ」
ただ、君は違う。
宗一さんは切れ長の目をさらに細め、語調を強めた。
「ご両親が君を外に出さなかったことで、力を制御できてないことが村全体に知られてしまったんだ」
「あの、前も思ったんですけど……俺が力を制御できてないことを、村の人達に知られるとなにかまずいんですか?」
同じ家に住む家族が気にするのは当然だが、村人達はあくまで他人だ。なのに何故、自分や宗一に干渉しようとするのか、そこが分からない。
固唾を呑んで待っていると、急に抱き寄せられた。咄嗟のことに反応できず、彼の胸に倒れ込む。
「宗一さん?」
「……本当にくだらない迷信、なんだけどね」
21
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる