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植え替え
#24
しおりを挟む新しい出会いと繋がり。
雑談をして、笑い合って、触れ合う機会も何回かあったけど、最後まで力は働かなかった。
────誰も傷つけなかった。
「……っ」
文樹さん達と別れ、家に帰ってからも、それはそれは落ち着かなかった。
宗一さんが帰ってきてからは、矢継ぎ早に今日のことを話した。初めて同年代の方と連絡先を交換したと話すと、彼は自分のことのように喜んでくれた。
「さすが! 力を制御できたこともすごいのに、友達までできたんだね」
「あ、ありがとうございます」
友達……。
まだそこまでは言えないかもしれない。初対面だし、遊んだわけでもないから。
でも、そうなれたら良いな。嬉しそうな宗一さんを見て、より一層想いが強くなる。
「あ……! それともうひとつ。文樹さんから、結婚してるのか訊かれまして。宗一さんが仰っていた通り、指輪って目立つんですね」
隣りに寄り添う彼の左手に視線を移す。
とても小さなものだけど、強い力を秘めてるんだ。
「そうだね。気になる人がいたら、まず指輪をしてるか見るから。……それはさておき、白希は何て答えたの?」
「えぇ。その……婚約者がいます、と。性別までは答えられなかったんですが」
みるみる声が小さくなる。自信なく答えてしまったけど、膝の上で拳を握り締める。
「ずっとずっと好きだった人……ということは、言ってしまいました」
文樹さんがぐいぐい訊いてくるものだから、途中からはただの惚気けになってしまった。
「俺の話なんて聞いても、つまらないんじゃないかな、ってちょっと心配なんですけど」
「そんなことないよ。その子は、君のことを知りたいから色々訊いてきたんだろう。遠慮しないで、次はもっと教えてあげな」
頭をぽんぽんと叩かれる。
宗一さんは俺の頬を両手ではさみ、額を当ててきた。
「白希には勇気がある。後は自信さえあれば、どんな人とも上手くやれるさ」
彼の言ってることはよく分かる。ただ、自信を身につけるのが一番難しい。
自尊心は一朝一夕で育つものじゃない。
目の前にいる宗一さんは最高のお手本だけど、彼の行動や言動を真似たところで、俺は俺のままだ。ひとりになったときに羞恥心で爆発するに決まってる。
「……自分のことは誇れなくても、俺にとっては宗一さんが誇りだから。宗一さんと一緒に過ごすことが、一番の自信に繋がります」
手は膝に乗せたまま、顔だけ彼の方へ向けた。
誰かに言ったら呆れられてしまうけど、これまでは外出も一人でできなかった。けど今日無事に行ってこられたのは、宗一さんが背中を押してくれたおかげだ。
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