熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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植え替え

#23

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とは言え、とにかく力が働かないように意識した。お冷を持つ時も、メニュー表を持つ時も、ひたすら無心を心掛ける。昨日の二の舞にならないように。
「あ、ていうかここ抹茶専門店なんだけど……抹茶とか平気?」
「ええ、むしろ大好きです。小さい頃はよく自分でも茶を点てていたので」
「やば、しぶいな」
露骨に驚く文樹さんの隣で、きみこさんが笑った。
「茶道をやってらしたの?」
「いえ、そんな真面目なものでは……簡単な作法だけです」
少しして運ばれてきた抹茶のパフェは、すごいボリュームだった。よく分からないから二人と同じものを頼んだけど、こんなの食べ切れるだろうか?

と思ったのは、杞憂だった。白希は一番早くに食べ終え、スプーンをナプキンの上に置いた。
白玉も美味しいし粒あんも美味しいし。こんな美味しいスイーツが世の中には溢れてるんだな……感動だ。

「余裕じゃん。もう一個食べる?」
「あっ! もう大丈夫です、ご馳走様でした!」

文樹さんの提案に、慌てて首を横に振る。きみこさんはずっとここのスイーツを食べたがっていたらしく、満足そうだった。
「美味しかったです。俺まで御一緒させていただいて、本当にありがとうございます」
「いーや、むしろ無理に付き合わせて悪いね。ウチのばあちゃんマジで人さらいの気があるからさ、この前も小さい子に話しかけてジュース買ったげたり」
「人聞き悪いわねえ。白希さんにはずっとお礼がしたいと思ってたんだよ」
二人の掛け合いは見てて面白い。宗一さんと雅冬さんの会話を思い出した。

「……っていうか気になってたんだけど」

口元をナプキンで拭いてると、文樹さんは頬杖をつき、こちらに手を伸ばしてきた。

「もしかして結婚してる?」
「うわっ!」

左手を持ち上げられ、その場で飛び上がる。触られることに極端な反応を示してしまい、文樹さんも目を見開いた。
「あ、ごめん。触られんの嫌なタイプか」
「こら、文樹! 失礼でしょう、触る前に一言言いなさい!」
「いや、ばあちゃんこそさっき何も言わずにぐいぐい手引っ張ってたじゃん……」
二人が話してる間も、滝のような汗が流れる。
本当にまずい。力が働いたらどうしよう。

不安は高まる一方だけど、何も起きなかった。熱くもないし冷たくもない。
……大丈夫そうだ。
まだ文樹と手が触れているが、心拍数は徐々に戻っていく。昨日の状況とは全然違うって、何故か確信していた。

「ほら、指輪してるから」
「あ、その……! 結婚はまだなんですけど。婚約してる人がいます」

そう答えた途端、顔が熱くなった。
人に話すと改めて重みを感じる……。

きみこさんは間髪入れず、おめでとうと手を叩いた。横にいる文樹さんは興味深そうに指輪をつついてくる。
「相手可愛い子?」
「え。あ、ええと……」
それに答えるのは逡巡した。女の子じゃなくて、相手は歳上の男の人なんだよなぁ……。

まだまだ同性婚は珍かだ。
こういう時、機転もきかないし口下手で困る。何も言わず、こくこくと頷いた。
「ヒュー、幸せだね。二十歳でするぐらいだし、結構稼いでんの?」
「いえ、俺は無職です。いずれは働こうと思ってるんですけど……」
今は相手に養ってもらってることを伝えた。隠しても仕方ないし、自分より少し歳上なことも話した。

「歳上の相手が稼ぎ頭って理想だよ。はぁ~、俺も頑張って就職前にお嫁行っちゃおうかな」

ため息をついて呟いた文樹さんの頭を、きみこさんが手加減なく叩いた。俺はどっちをフォローしたら良いんだろう……。
「いって……。でも俺彼女いないし、間違いなく人生の先輩だよ。良かったら連絡先交換しない?」
「は、はい。喜んで」
「ははっ。何か君、面白くて好きだわ。宜しく、白希」





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