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植え替え
#22
しおりを挟む「え?」
声の方に振り返ると、住所変更の時に会ったおばあさんが後ろで手を振っていた。まさか彼女の方も覚えていてくれたなんて。
「お久しぶりねぇ。お元気?」
「お久しぶりです! はい、とても」
笑顔で返すと、彼女の隣にひとりの青年が立っていることに気付いた。息子さん……にしては歳が離れすぎている。
白希と変わらない外見の為、関係を推し量っていると。
「良かった~。あ、こっちは孫の文樹よ。私達これから休憩しに行くところなんだけど……もし良かったら、お兄さんも御一緒しない?」
「えっ? いえいえ、そんな。突然悪いです」
「全然、むしろ来てくれたら嬉しいのよ。あ、でもご用事があったかしら?」
「よ、用事はないんですけど……」
会ったのは二回目で、名前も知らない。そんな人間と突然一緒に行動をとられても、このお孫さんも困るだろう。
言葉を濁しながら穏便な断り方を考えていると、お孫さんの方が口を開いた。
「ばあちゃんに絆創膏をくれた、って人ですよね。ありがとうございます。ばあちゃんはそそっかしいから、今日もボランティアについてきたんですよ」
「あはは、そうそう。この役所の周りにあるお花の植え替えをしてたんだけど、今日も怪我しちゃってね。ねぇ、用事がないならお茶だけでもご馳走させて。文樹、この近くに美味しいパフェのお店があるんでしょ?」
「あるけど、この人が甘い物好きじゃなかったら微妙じゃない?」
最初は微笑ましい気持ちで二人の会話を見守っていたが、おばあさんは俺の手を取って歩き出してしまった。
「とりあえず喉乾いたから早く行きましょ!」
「ばあちゃん、それほとんど誘拐……」
ひええ。
どうしよう。ほぼほぼ初対面なのに。
ていうかやばい、手……!
おばあさんと繋いでる手に神経が集中した。
今力が働いたら本当にやばい。無理に振り払うこともできないし、絶対に抑えなきゃ。
今日一日分の手汗を出したものの、何とか目的の店まで問題なく辿りついた。
「自己紹介が遅くなってごめんなさいね。私は時原きみこ。こっちが孫の」
「蜂須賀文樹です。宜しく」
「よ、余川白希です。ふぅ……宜しくお願いします」
かなり体力を消耗し、息切れを起こしてる。悟られないように頭を下げると、きみこさんは「やっぱり礼儀正しい人ね」と笑った。
「文樹と同じぐらいなのに、すごく上品で大人だわぁ」
「いえいえ、そんな。文樹さんの方がずっと大人っぽくて、落ち着いてますよ」
聞けば、彼は二十。見事に同い年だった。
今は大学三年生で、楽器屋でバイトをしているらしい。綺麗な黒髪で、目を見張る美形だ。宗一さんも人形みたいに整った造形をしてるけど、この人は儚い印象だった。
文樹さんは休みの日に、時々きみこさんのボランティア活動に付き合ってるらしい。
大学生なら忙しいだろうに……おばあちゃん想いの優しい人なんだな。
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