熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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植え替え

#20

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“大丈夫だから”。
その言葉を聞いた時、胸の苦しみがおさまった。足元の熱も、波が引いていくようにスッと消える。

「……良かった。落ち着いた?」

青年はスプレーを床に吹きかけて、ゆっくり立ち上がった。
「さっきのは俺が手ぇ離しちゃったのが原因だから、作り直してきますよ。ちょっと待っててください」
「あ。い、いえ!! 大丈夫です、それより本当にすみませんでした!!」
「えぇ、ちょっと!」
深々とお辞儀をし、走ってカフェから出た。

あぁ、何で……何でいつもこうなるんだろう。
結局ひとりじゃまともに動けない。これじゃ働くなんて夢のまた夢だ。
親切にしてくれた人に迷惑をかけてしまった……。

結局疲れるまで走って、帰路についた。その頃には気持ち悪さはおさまっていたけど、久しぶりに指先が真っ赤に染まっていた。

「……」

反対に、白希がいなくなった店内では静寂に包まれていた。金髪の青年が自身の手のひらを見返し、小さく呟く。

「やっば。……見つけちゃったかも」

口角を上げてポケットに手を入れ、再びレジへと戻った。





「ただいま~。……って」
「お……おかえりなさい……っ」

何とか忘れようとしたのに、結局宗一さんが帰ってくるまで大号泣してしまった。涙はようやく止まったけど、顔は真っ赤で目は腫れぼったい。
宗一さんは鞄を置くと、顔面蒼白で肩を掴んできた。

「何があったんだい? まさか誰かに乱暴された!? 警察を……いや、その前に私が会いに行くから事件が起きた場所と時間を……いや、スマホのGPSで分かるからまずは相手の顔を」
「お、落ち着いて宗一さん。そういう事件は一切起きてないのでご安心を」

GPSのくだりは気になったものの、鬼気迫る宗一の様子に恐怖を感じ、大慌てで昼間のことを説明した。
カフェの注文に苦戦し、挙句の果てに力が暴走して店員に迷惑をかけてしまったことを話した。思い出したらまた罪悪感が息を吹き返した為、床に正座する。

「本当に、私は最低です。生きててごめんなさい…………」
「落ち着きなさい。一人称戻ってるし……そんなの大した問題じゃないよ」

事情を理解した宗一さんはネクタイを解き、心底ほっとした様子で呟いた。

「ふぅ、良かった。もし白希に乱暴を働く輩がいたら、私は法から外れたことをしなきゃいけないところだったよ。私を犯罪者にしないでくれてありがとう、白希」

もうどこからつっこめばいいのか分からない。
いつだったか雅冬さんが頭を抱えていたけど、ツッコミ不在ってこういうことを言うのかな。自分も含め、論点がズレやすい。




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