熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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植え替え

#16

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同居生活が始まり、早くも二週間が経過した。
その間、変わったことがたくさんある。
以前より自然に宗一さんと触れられるようになったことで、確実に距離感が変わった。朝と夜、交互に触れ合うルールもなしになった。そんなものがなくても起きた時と寝る時は謎のチューをするし、お風呂も暗黙の了解みたいに必ず一緒に入ってる。

男同士でこの行為は普通じゃないと、さすがに分かってる。つまり自分と彼は、知人でも友人でもない……。

朝食中、思いきって質問してみた。

「俺と宗一さんって、今どういう関係なんでしょうか?」
「うーん、そうだね……。じゃあヒント。“こ”から始まる関係だよ」  

情けないけど手汗がすごいことになってるので、両手はテーブルの下に隠す。
そして“こ”から始まる言葉を思い浮かべてみた。
でも、それってもうアレしかないよな。

「……恋人。ですか?」
「非常に惜しい」

宗一さんはクロワッサンをひとつかじり、コーヒーを飲んだ。

「婚約者だよ。でも大前提として、人前ではもう私の妻と名乗りなさい」
「…………」

踏むべきステップを五段ぐらいすっ飛ばしてる気がするんだけど……この人はそれで良いんだろうか?

俺は手放しで喜べない理由がある。二十歳になって、自由を手に入れて、直後に憧れていた人から求婚されて。あまりに自分にとって良いこと続きで、正直怖いんだ。
幸せになった分、必ずどこかでその反動がくる。
この不安は、宗一さんには上手く伝えられない。

基本幸せになって然るべき、って人だ。俺とは脳の構造が全然違う。

「真面目な話をすると、今すぐ入籍したい」
「ははぁ。宗一さんの結婚願望の強さは、本当に恐れ入ります」
「いやそうじゃなくて。真面目な話になるけど、いいかい?」

宗一さんは少し頬を赤らめた後、咳払いした。さっきとは打って変わり、真剣な表情で話した。
「私と君は、今はただの他人だ。同じ村の出身ということだけ。父は村を捨てたも同然だし、絶縁こそしてないけど、私達親子は彼らからすれば裏切り者なんだ」
年老いた祖父母を残し、宗一さんのお父様は一代で義父の会社を大きくした。もう村に戻る必要なんてないぐらいの成功をおさめている。

それはそれで良いと思ったけど、問題は俺のことらしい。

「そして村の人間は、必ず君を連れ戻しにくる」
「……え」

カップを掴んだ手が震える。零しそうになったので、慌てて取手を離した。
「どうしてですか? 私なんてずっと屋敷の中にいて……家族とすら、まともに話さなかったんですよ。村の人達からすれば心底どうでもいい存在だと思います。それよりお父様達が見つからないことの方が心配されてるかと……」
未だに両親達の安否は分からない。遺体がひとつもなく、家だけ焼失した件を誰もが不安に思ってるはずだ。

よりによって唯一安否が分かってるのは、不出来な次男。……ということは、しっかり伝播されてるだろう。




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