熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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植え替え

#14

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────いつの間にか、すっかり“それ”らしい関係になってるじゃないか。

内心笑い、両手をテーブルの上に置いた。

「上司……いや、友人の頼みなら仕方ない。改めてよろしく。白希」

目の前に片手を差し出される。考えるより先に身を乗り出し、その手を握り返していた。
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
「はは。何か照れるな」
さっきまでとまるで違う接し方に戸惑っていたけど、真岡さんは敬語を外してくれた。
「ご迷惑じゃなければ、俺も名前で呼んでもいいですか?」
「もちろん。宗一なんて初めて会った時から名前で呼んできたし」
「へぇ……!」
二人の昔話を聞いてみたい。わくわくしながら頷いていると、テーブルに手をついた部分からジュウ、と焼かれたような音が聞こえた。

「白希」
「あ、ごめんなさい!」

テーブルを熱してしまうところだった。慌てて、今度は鍋の蓋を素手で持ち上げてしまう。けど。
「白希、熱くないのか?」
驚いた顔で立ち上がった雅冬に、白希はこくこくと頷いた。

「大丈夫です。すぐに温度を下げたので」
「な、なるほど」

雅冬さんは、やっぱり力のことも知ってるみたいだ。
きっとそうだと思ったから、俺も隠さず答えた。
「熱くて触れないものは冷たくすればいいんだって、今さら気付いたんです。逆に宗一さんに入れたホットコーヒーはずっと熱々にできるし、気持ちさえ落ち着いてれば中々便利です」
「そうか……」

真岡は密かに思案した。
まるで歩くカップウォーマー。……なんて失礼過ぎる表現だけど、その気になったら最高何度までものを熱することができるんだろう。
気になるが、色々危険過ぎるから試すべきじゃない。
宗一も極力力を使わないよう過ごしている。
そういえば物体を軽くすることはあるけど、重くしたところは見たことがないな。ケースバイケースなんだろうけど……。

「……さぁ、白希の言う通り早く頂こう。何度も温め直すのは申し訳ないからね」

宗一が両手を合わせた為、白希も席について鍋から白菜を取り分けた。
いつも楽しいけど、初めて三人で食事した。賑やかで、暖かい……家族の食卓みたいだった。




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