56 / 196
植え替え
#14
しおりを挟む────いつの間にか、すっかり“それ”らしい関係になってるじゃないか。
内心笑い、両手をテーブルの上に置いた。
「上司……いや、友人の頼みなら仕方ない。改めてよろしく。白希」
目の前に片手を差し出される。考えるより先に身を乗り出し、その手を握り返していた。
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
「はは。何か照れるな」
さっきまでとまるで違う接し方に戸惑っていたけど、真岡さんは敬語を外してくれた。
「ご迷惑じゃなければ、俺も名前で呼んでもいいですか?」
「もちろん。宗一なんて初めて会った時から名前で呼んできたし」
「へぇ……!」
二人の昔話を聞いてみたい。わくわくしながら頷いていると、テーブルに手をついた部分からジュウ、と焼かれたような音が聞こえた。
「白希」
「あ、ごめんなさい!」
テーブルを熱してしまうところだった。慌てて、今度は鍋の蓋を素手で持ち上げてしまう。けど。
「白希、熱くないのか?」
驚いた顔で立ち上がった雅冬に、白希はこくこくと頷いた。
「大丈夫です。すぐに温度を下げたので」
「な、なるほど」
雅冬さんは、やっぱり力のことも知ってるみたいだ。
きっとそうだと思ったから、俺も隠さず答えた。
「熱くて触れないものは冷たくすればいいんだって、今さら気付いたんです。逆に宗一さんに入れたホットコーヒーはずっと熱々にできるし、気持ちさえ落ち着いてれば中々便利です」
「そうか……」
真岡は密かに思案した。
まるで歩くカップウォーマー。……なんて失礼過ぎる表現だけど、その気になったら最高何度までものを熱することができるんだろう。
気になるが、色々危険過ぎるから試すべきじゃない。
宗一も極力力を使わないよう過ごしている。
そういえば物体を軽くすることはあるけど、重くしたところは見たことがないな。ケースバイケースなんだろうけど……。
「……さぁ、白希の言う通り早く頂こう。何度も温め直すのは申し訳ないからね」
宗一が両手を合わせた為、白希も席について鍋から白菜を取り分けた。
いつも楽しいけど、初めて三人で食事した。賑やかで、暖かい……家族の食卓みたいだった。
22
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる