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植え替え
#13
しおりを挟む「せっかく白希様の前では冷静沈着を心掛けてたのに……結局お前のペースに狂わされる」
「まぁまぁ。きっと空腹で気が立ってるのさ。先に軽いものを用意しよう」
宗一はキッチンへ入り、冷蔵庫から作り置きのタッパーを取り出した。タイマーとにらめっこしている白希の頬にキスをし、空いたスペースで三人分の小皿を用意する。
「私も、自分が過保護だということはちゃんと気付いてる。とは言え白希は狙われやすいんだ。良い子な上に、困ったことに容姿まで良いからね……最近は日中も変質者が現れるし、私がいない時になにかあったら大変だろう? 誰が白希を守るのか、という話だ」
「人が多いところなら大丈夫だろう。やたら白希様の見た目について話すが、俺からしたらお前が一番彼を変質者の目線で見てると思うぞ」
「全く人聞きが悪い。白希、聞かなくていいよ」
宗一さんが隣でなにか言ってるけど、時間を見るのに必死でそれどころじゃない。出汁もいれたし、後は的確な時間に火を止められたら完成だ。
「とにかく。ニュースでも取り上げられなくなったし、そろそろ大丈夫のはずだ。彼を自由に行動させよう。でないといつまで経っても籠の鳥だ。その苦しみはお前も分かるだろう?」
「もちろん」
キッチンから戻り、トレイごと小皿を置く。テーブルに手をつき、宗一は真岡を見下ろした。
「束縛してくる人間に囲まれて育ったからね。私や白希はお家存続に欠かせない強力な道具なんだよ。但し己で制御できなければ、途端に爆弾扱いされる」
抑揚のない声には、確かな重圧が感じられる。真岡は常に守っていた一線に足を踏み入れてしまったことに気付いた。
「そして結局、私も彼らと同じ血が流れてる」
「そう……いう意味じゃ」
真岡が苦しそうに顔を歪めたとき、鍋を持った白希がやってきた。こちらの会話などつゆ知らず、笑顔で鍋の蓋を開ける。
「お待たせしました! 簡単なものですけど、召し上がってください」
「白希、重い物を運ぶ時は私に言いなさい。怪我したら大変だろう」
宗一は終始はらはらして、白希の様子を傍で眺めてる。
そういうところが過保護だと言ってるのだが……真岡は半ば諦めモードでため息をついた。
「お二人ともお疲れ様です。さ、熱いうちにどうぞ」
白希が作ったのは和風出汁のミルフィーユ鍋だ。柚子胡椒と一緒に食べると、またアクセントになって美味い。
「これは驚きました。白希様、ちょっとの間に上達されて素晴らしい」
「だろう? 白希は吸収が早いんだ」
「本当に。でも何でお前がドヤ顔なんだ」
「あはは……」
宗一と真岡のやり取りは相変わらずだが、見ていて楽しい。
「簡単なレシピなので、真岡さんならすぐにできちゃいますよ。……それとやっぱり、様付けはやめましょう。呼び捨ての方が慣れてるし、歳下だから敬語じゃない方が嬉しいです。ねっ、宗一さん!」
真岡の立場上、拒否することは目に見えてる。その為、日中の上司である宗一に同意を求めた。
「やっぱり外で様呼ばわりされてると、どんな関係かと思われますよ。逆に目立ってしまいます。俺と真岡さんは仕事の付き合いじゃないですし!」
「ふーむ、確かに。雅冬、これからはもっとカジュアルに白希と関わってもらえないか。……そうだな、それこそ友人のように」
宗一は菜箸を置き、対面の真岡に微笑んだ。宗一の隣では白希が緊張しながら様子を見守っている。
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