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植え替え
#7
しおりを挟む経験したことを誰かに話すと、また新たな発見が生まれる。実は違ったんじゃないか。あれはこういう意味だったのかと、考え直す機会に繋がる。
記憶の定着は、ありがちだけど繰り返しが最強だ。初めて手にした日は何一つ分からなかったスマホも、今では自分で設定を変えたりしている。
毎日学べることがあるのは、本当に楽しい。
食事の支度も、宗一に見守ってもらいながら始めることにした。
最初はとにかく火傷しないよう、手を切らないよう口酸っぱく言われた。
「うん、すごく美味しいよ。初めてとは思えない」
味に関してはいまいち自信がないけど、宗一さんは満足そうに頷いた。
「本当に大丈夫ですか? 俺は薄味で育ったので、美味しくなかったら遠慮せず言ってくださいね」
「ほう、だから白希は細いのかな。薄味の方がヘルシーだもんね」
「あはは。だからこそ、体に悪い物が食べたくなります。例えばほら……カップラーメンとか。ずっと昔に食べたことあるんですけど、久しぶりに食べたいな」
「何だ、それなら今すぐ買おう。何箱欲しい?」
「一個で大丈夫ですよ!」
何故なのか、彼はとにかく極端だ。ゼロか百か、白か黒かで判断する。中間がない。
宗一さんは裕福な家庭で育ったから、金銭感覚が自分と違い過ぎる。
でも、今日真岡さんが言っていた。宗一さんは別に浪費家ではなくて、必要最低限なものにしかお金をかけないらしい。
なのに白希に関することは異常なまでに散財する。理由は分からないが、素直に胸が痛かった。
「宗一さん、俺に気を遣って、あまりお金を使わないでくださいね。そう、それが俺の為と思ってください」
「白希は本当に謙虚だねぇ。分かった、月にいくらまでと決めよう。……でもすぐに結婚するんだし、そしたらまた見直さないとだね」
彼の頭の中では、結婚へのカウントダウンが着実に始まっているようだ。
もう突っ込むこともやめ、ノーリアクションで流すことにした。
食事を終えて、食器を片付ける。お風呂を沸かして、入ったら掃除をする。
皆がしていること。でも、それが自分にとっても当たり前になったことがすごく嬉しい。
村にいた時は家事手伝いも許されなかったから、時が経つごとに退行してる気がした。でも今はひとつずつ覚えて、身につけている。全部宗一さんのおかげだけど、確かに前に進んでいた。
夜も深まり気持ちが舞い上がってるせいか、何となくスマホで“花嫁修行”と検索してみた。見事にひとつもできることがなくて、逆に笑ってしまう。
俺をお嫁さんに選ぶ要素なんて一つもないのに。
でも全然悲しくはなくて、むしろやる気がわいてきた。結婚の話はさておき、ここに書いてあることは全部生きる上で必要なスキルだ。敬遠せず、ちょっとずつ挑戦していこう。
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