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植え替え
#3
しおりを挟むパニックに陥ったことはもちろん、彼にキスをしたことも。謝罪だけじゃ済まないかもしれない。そう思って震えたが、宗一は静かに首を横に振った。
「それは私の台詞だ。無理させてごめん」
シーツの中で、互いの脚が触れる。頭の整理に必至だったけど、二人とも裸だ。とんでもない状況は今も続いている。
「でもこれ以上なく幸せな夜だったよ。やっと、君の口から私を求める言葉が聴けたから」
右手の指を絡ませ、手を握られる。横向きで向かい合っていたが、昨夜と同じくまた押し倒されてしまった。
真上に宗一が覆いかぶさってくる。
「こうすると特に、君の強い想いが流れ込んでくる」
繋がった自分達の手を、彼は愛しそうに口づける。
しかし、彼の台詞には違和感を覚えた。甘い例え話ではなく、彼は本当のことのように話し、胸を押さえたからだ。
「それは……どういう意味で」
問いかけている最中だったが、その先は封じられた。
「んっ、ん、ふ……っ!」
また、貪るような口付けが始まる。
まずい。“これ”だ。こうなると理性が弾け飛んで、後先考えず彼と沈みたくなってしまう。
その証拠に突き放すどころか、彼の腕を強く掴んでいた。
彼から与えられる熱は、我を忘れさせる。どうしようもなく気持ちいい。この快感を知ってしまった以上、もう自分の力で抗うことは不可能だった。
「はぁ、はぁ……っ」
息ができなくなると頭がぼうっとする。それが快感に落ちる前段階なのかもしれない。
口端から零れた白希の唾液を、宗一は指で拭いた。
「不思議なことに、目を閉じても、耳を塞いでも君を感じるんだ。こうして触れてる間は、君の感情がよく読み取れる。同じ力を持つ者同士の特徴なのかもね」
今度はもう片方の手も繋ぎ、宗一は長い睫毛を揺らした。
好きという気持ちが最大まで膨れ上がって、何としても手に入れようとする。
「君はこの力を憎んでるだろう。私もそうだった」
手に力が入る。
「だけど唯一良かったことは、君の気持ちを全身で感じられることだ。深いところまで触れ合って……言葉にできないことは、こうして聞き出していく。狡いかもしれないけど」
宗一は白希の首筋に何度も口付けた。
「白希は恥ずかしがり屋だからね」
「そんな……普通ですよ……っ」
好きとか、大っぴらに言えることじゃない。だって、それはもう“告白”になってしまうから。
その言葉を口にすることがどれたけ凄いことか、完璧な彼には分からないのかもしれない。勇気はもちろん、覚悟やプレッシャー、責任を背負うことになる。
だが自分には、たくさんのものを抱える自信がない。彼のことが好きだけど、幸せにできるか分からない。
むしろ傷つける可能性の方が高いんだ。さっきみたいに力が暴走したら……彼を傷つけたら、それこそ再起不能になる。
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