熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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奇な糸

#18

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「……?」
 

ドアを閉め、鍵をかけた宗一は違和感を覚え、動きを止めた。異様だ。まるで、家の中の空気が振動してるよう。

「白希?」

足早に寝室へ向かう。予想通り、そこに白希がいた。

だが床に座り込み、俯いている。
一体どうしたのか。確かめようと近付いた時、ベッドサイドに置かれた小型の加湿器から鈍い破裂音が鳴った。クリア素材だから分かったが、中に入った水がボコボコと沸騰し、上部に開いた口から吹き零れている。それはおさまるどころか激しくなった。

「はぁっ……は、あ……っ!」

胸を押さえて苦しみ出した白希の元に駆け寄る。
「白希!! 大丈夫!?」
少し離れていただけなのに、何がトリガーになったんだ……?

彼が暗い記憶を彷彿とするような物は置いてないはずだ。
原因不明の事態。とうとう高熱に耐えられなくなり、加湿器が破裂した。
座位を保つことができなくなり、白希が倒れ込んでくる。
「白希、大丈夫だから落ち着いて。ゆっくり息を吐くんだ」
呼吸数が異常なのは明白だ。恐らく過呼吸を起こしている。
すぐにおさまる様子じゃない。キッチンにあるビニール袋を取りに行こうとしたが、シャツを掴まれた。
どこまで意識がしっかりしてるのか分からないが、彼は息も絶え絶えに呟いた。

「宗、一さん。……いかないで……っ」

白い肌に雫が零れ落ちる。
それを目にしたとき、ずっと守っていた一線を越えていた。
「……ごめんね。これはノーカウントで頼むよ」
白希の胸に手を当てたまま、唇を重ねた。

「んう……っ!!」

荒療治じゃ済まないし、彼の気持ちを裏切る行為だ。
だけど、今彼から離れることなんて絶対にできない。苦しげにもがく白希を押さえ、熱した息を交換した。
腕を掴む手に力が入り、軽く引っ掻かれる。それでも構わず、宗一は白希の顎を押さえた。

時針のない部屋では、一秒すら長い。どれだけの間そうしていたか分からないが、白希はようやく瞼を開けた。
「はぁ……っ」
その顔は、可哀想なほど涙でぐしゃぐしゃだ。加えて、口も。

離れる際、互いの口を淫らな糸が引いた。
「白希……んっ!」
大丈夫か訊こうとしたものの、今度は彼に唇を塞がれた。
熱を求めているが、それを上手く伝えられない、つたないキスだった。

「はぁ、は……はは。じゃあ……今のも、ノーカウントですよね?」




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