熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
38 / 196
奇な糸

#16

しおりを挟む


「心配してくれるのは本っ……当に有難いんですけど、何だか宗一さんの心臓にも良くない気がします。一旦落ち着いてください」
「そうなんだけど、白希が怪我したらって思うと気が気じゃないよ。こればかりは頭で分かってても駄目で……心の問題だな」

そう言うと、彼は叱られた子犬のようにしおれてしまった。可哀想でこれ以上は言えない……。
「すみません。そもそも俺が転んだのがいけませんよね。気をつけます」
「いや、注意してたって怪我はするさ。白希は悪くない」
体育座りから正座になり、彼の言葉に頷く。
「そういえば……今日、宗一さんに頂いた絆創膏が活躍しました」
役所にいる時、指を切ったおばあさんに絆創膏を渡したことを伝えた。彼は終始真剣な表情で聞いた後、強い力で抱き締めてきた。

「そのおばあさんの言う通りだよ。白希は本当に良い子だ」
「そんな、宗一さんのご配慮の賜物ですよ。……ただ、おばあさんの言ってたことが印象的だったんです。同じ場所にずっといることなんて、人間である以上不可能なのかも、って」

宗一と向かい合わせになりながら、力を抜く。彼の胸に顔をうずめた。優しい力で頭を撫で、宗一は小く呟いた。
「確かにね。誰もがいずれは老いて、自分の力では生活することが困難になる。……それでも帰る場所があるというのは恵まれてる」
「ですよね。……だから、俺も今とても幸せです」
両手を持ち上げ、恐る恐る前に伸ばす。何度も躊躇したが、やがて大きな背中を抱き締めた。

「今日も、必死に手続きしてる間は大丈夫でした。でも手持ち無沙汰になって、じっとしてる時はすごく不安で……早く宗一さんに会いたいと思いました」
「それは本当?」
「えぇ。真岡さんのおかげで乗り切れたんですけどね。俺ってやっぱり、まだまだ子どもみたいです。ごめんなさい」

不安が高じて、無意識に彼のことを思い出していた。早く帰りたいというのは、早く安心したいということ。
宗一の変わらない笑顔を見て、癒されたかった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【陽気な庶民✕引っ込み思案の御曹司】 これまで何人の女性を相手にしてきたか数えてもいない生田雅紀(いくたまさき)は、整った容姿と人好きのする性格から、男女問わず常に誰かしらに囲まれて、暇をつぶす相手に困らない生活を送っていた。 それゆえ過去に囚われることもなく、未来のことも考えず、だからこそ生きている実感もないままに、ただただ楽しむだけの享楽的な日々を過ごしていた。 そんな日々が彼に出会って一変する。 自分をも凌ぐ美貌を持つだけでなく、スラリとした長身とスタイルの良さも傘にせず、御曹司であることも口重く言うほどの淑やかさを持ちながら、伏し目がちにおどおどとして、自信もなく気弱な男、久世透。 自分のような人間を相手にするレベルの人ではない。 そのはずが、なにやら友情以上の何かを感じてならない。 というか、自分の中にこれまで他人に抱いたことのない感情が見え隠れし始めている。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻に関する部分です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...