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奇な糸
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しおりを挟む「……っ」
食事が終わり、歯を磨いてる最中も宗一の台詞が頭から離れなかった。
『君を迎え入れる準備はできてる』。
────あとは君の心の準備だけだ。
彼は席を立つ際にそう零し、白希の片手にキスした。
あんなこと、生きてる間に言われるとは思わなかった。
やっぱり宗一さんは経験豊富で、今までもたくさんの人を口説いてきたとしか思えない。
でも、これまでもこれからも俺のことしか愛する気はないと豪語している。謎だ。
口をゆすいで照明を消す。廊下へ出ようとした時に段差があったことを忘れていて、思いっきり転んでしまった。
「白希? 大丈夫!?」
尻もちをついた音が響いた為、宗一が顔面蒼白で駆けつけてきた。何とも情けないことでお騒がせしてしまった。申し訳なくて、そのまま土下座の体勢に移行する。
「すみません、大きな音を立てて。……下の階の方にも響いたはずです」
「それは申し訳ないけど……怪我はないかい?」
廊下の明かりを点け、宗一は白希のズボンの裾を捲りあげた。
「わわ。大丈夫ですよ、ちょっと倒れただけですから」
「不安だな。白希は細いから、骨折とかしてそうで」
求婚から一転、お年寄り扱いだ。
まぁ確かに、否定はできない。何年も日に当たってないし、運動してないし、そんなに栄養あるものも食べてこなかった。
でも痛みはないから、捻挫どころか擦りむいてもしてないだろう。宗一を安心させようと顔を上げた瞬間、……視界が急上昇した。
「ここじゃよく分からないからベッドでちゃんと見る」
「いやいやいや! 宗一さん!? ちょ、下ろしてください……!」
昨日の危機の再来。また体重を調節され、抱き抱えられてしまった。
ていうか重量調節なんかしなくても、彼なら俺を軽々と持ち上げられそうだ。すごく鍛えてらっしゃるし。
色々考えてる間に寝室に連れてかれ、手のひらや膝などボディチェックをされた。
「……うん、見た感じはどこも怪我してないね。良かった」
「大丈夫ですよ。それに俺は男ですから、ちょっとぐらい怪我したって」
問題ない、と言った直後にズボンをずり下ろされた。
「わわわわ! やだ、何すんですか!」
「よく考えたら、一番打ったはずのお尻を見てないだろう?」
「怪我してませんよ! 命懸けます!」
何でこんなことに命を懸けないといけないんだ。と思ったのも束の間、下着まで引き下ろされた。
「OK、いつも通り綺麗だ。痛みはない?」
「ありません……」
むしろ心が痛みます。
泣きたくなったけど、おしり丸出しの方が辛いので衣服を整える。
顔が赤いせいで熱があるんじゃないかと言われた。どう考えても全部羞恥心によるものなのに、宗一さんは変なところで天然だ。
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