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奇な糸
#14
しおりを挟む買い物ひとつ自分でしたことがないんだ。もっと色んなことを学んで、しっかりしなきゃ。
「宗一さんが俺に外の世界を教えてくれたんですよ。今朝仰ってたことを丸パクリして申し訳ないけど、俺は今人生で一番幸せです。早く自立したいと思うのは、宗一さんと一緒にいたいからで」
そこまで言いかけて、ハッとした。
「私と一緒にいたいから、しっかりしたいと……。ふふ。素敵なプロポーズだね」
「い、いやいや……」
思わず否定したけど、それ以上言葉が出てこない。パスタを口に入れ、誤魔化す。
「安心して。私が責任持って、全て教えよう。君を一人前の二十歳にして、それから籍を入れる。今月中に、だ」
「前も仰ってましたけど、何故今月中なんです!?」
「早い方が良いからだよ。君が私を好きなら、今だって事実婚のようなものだ」
宗一はアイスティーを用意し、白希の前に置いた。再び椅子に座り、グラスをこちらに傾ける。
「白希。私が好き? それとも嫌い?」
「嫌いなわけないです!!」
今まで一番、というぐらい大きな声で即答した。喉が痛んだものの、フォークを置いて彼を見据える。
「じゃあ好き?」
「……好きです。恩人で、尊敬する人、として」
迷った末、少々ずるい答え方をした。目を逸らし、前で手を組む。
「何せ、会ってまだ日も経ってないし」
「そうだね。でも白希のラブコールはしっかり受け取ってるよ。……もうずっと昔から」
宗一は含みのある笑みを浮かべ、パスタを口に運んだ。
何だろう。何か……致命的なミスを犯した気がする。
なにかは分からないけど、この人は確信してる。俺が、彼をどれだけ想い続けていたか。求めていたか。
でも違和感の正体はどれだけ考えても分からなくて、アイスティーを一気に飲んだ。
またちょっと熱くなってる。
どうしよう。仮に俺が、恋愛感情としてこの人を好きだったとして。────それすらも見透かされてしまっていたら。
逃げる口実も失ってしまう。捕まえてもらわないと耐えられない心境になる。
心の中を見られるのは、下手したら裸になるより恥ずかしいと思った。下半身が熱くて、グラスを持つ手はひどく冷たい。自分を取り巻く世界は、まだまだアンバランスだ。
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