35 / 196
奇な糸
#13
しおりを挟むこれから夕食ということで、風呂は短めに済ました。
本当はもっとゆっくりお湯に浸かって、疲れをとってほしかったんだけど……。
白希はドライヤーで髪を乾かしながら、洗面台に並んだ小瓶を眺めていた。何に使うのかもよく分からないが、どれも宗一のお気に入りなのかも、と思ったら胸が熱くなった。
彼が愛用してるものや好みの傾向は、この家の中に溢れている。カーテンの色も家具の配置も、フォークの形も蛍光灯の色も、彼が選んだもの。そう思うと途端に全てが愛しく思えた。
……そんな風に思うなんて、変なの。
理由は分からないけど、早くも寝巻きに着替えてリビングへ向かう。すると一足先に、宗一が食事の支度をしてくれていた。
「冷食で申し訳ないね」
「いえいえ、大丈夫です!」
レンジでパスタを温めている彼の隣に行き、食器を用意する。その際、思いきってずっと考えていたことを口にした。
「宗一さん。これから、食事も含めて、家事は俺が担当します。……大丈夫でしょうか?」
当面はここで暮らすと決めた以上、何でもしてもらう立場から脱却しないといけない。仕事をしている彼を少しでも楽にする為に、自分は最大限できることをしよう。
緊張しながら回答を待つ。ちょうど、レンジが音を鳴らした。
「もちろん大丈夫……というか、白希こそ大丈夫? 無理はしなくていいんだよ」
「いえ、むしろやりたいんです。それをしながら働き口も探す、というのを最初の目標にしようと思って」
「またまた。それはいいのに……」
宗一は温めたパスタを陶器の皿に移し、残念そうにフォークを白希に手渡した。
「私は君を迎え入れる準備はできてる」
彼は未来の展望が見えているんだろう。でも俺は、まだ右も左も見えてない。たった一メートル先の前方すら。
だから彼の好意を、手放しで喜べない。受け入れてはいけないんだ。
「俺が許せないんです。……自分のことすら満足にできない状態で、貴方に負担をかけることはしたくない」
堂々巡りのようだが、本心を告げた。
彼のように立派な青年になることはできなくても……ボロボロでもいいから、自分の力で歩きたい。そしていつかは、彼に恩返しをしたい。
真剣に見つめ返すと、宗一さんは両手を上げ、降参のポーズをとった。
「君の意志の強さは好きだよ。……分かった。君は自分がやりたいことを、我慢しないでやりなさい。私もそれを全力で応援する」
それからフッと顔を綻ばせ、こちらの頭を撫でた。
「家出と自立を同時に、か。何だかワクワクするね」
「宗一さん……ありがとうございます。我儘ばかり言って、本当にごめんなさい」
「謝るのは私の方だ。君が傷つくのが嫌だから、ずっと家に居ればいいなんて……これじゃ村にいたときと同じになる。すまない」
宗一さんは、俺を社会の荒波から守りたいと思ってくれてる。
それは本当に嬉しいし有難い。でもその生き方を選んだら、俺は何一つ成せずに腐っていく。
21
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる