33 / 196
奇な糸
#11
しおりを挟む宗一は飄々と語ったものの、一瞬だけ激情を秘めた瞳を真岡に向けた。
「今まで何も知らずに過ごしていた自分が歯痒くて仕方ないよ。彼らを信用して、距離を保っていたが故に招いた結果だ。……もっと早くに会いに行けば良かった。それこそ、全身火傷してでも」
思わず背筋がぞくっとする。端麗な人間の冷徹な表情こそ、危険を感じるものはない。
視線を逸らし、シートベルトを締めた。
彼の底知れない恋情が恐ろしいし、彼をそこまで執着させる青年もすごい。
今でこそ宗一の方が過重な愛を向けているが、……もしかしたら白希の方が……先に彼に……。
「……さ、今日は直帰してゆっくり休んでくれ」
宗一は真岡にウィンクし、去り際に手を振った。近くのベンチに置いていた紙袋をとり、マンションのエントランスへ消えていく。
また何か考えてそうだな……。
自由過ぎる上司に呆れるが、さっさと退散するのが吉だ。
真岡は空いた助手席に鞄を起き、車を走らせた。
「白希、ただいま」
「宗一さん! お帰りなさい!」
玄関から上がってきた宗一に気付き、白希は足早に迎え入れた。コートを受け取り、ハンガーにかける。
「お仕事お疲れ様です。あの、勝手に申し訳ないと思ったんですけど……お風呂沸かしたので、先に入りませんか?」
「おや。よくやり方分かったね」
「スマホのおかげですよ。本当に便利ですね」
白希ははにかみ、浴室の扉を開けた。湯温は申し分ない。宗一はジャケットも脱ぎ、にっこり微笑んだ。
「ありがとう。せっかく白希が入れてくれたんだから、先に浸からせてもらおうかな」
「良かった……! どうぞどうぞ!」
白希は嬉しそうに片手で入浴をすすめる。
全く、可愛いにも程がある。
今すぐ抱きたい衝動を堪え、彼の手をとった。
「じゃ、一緒に入ろうか」
「え!」
当然のように提案すると、白希は背筋をぴんと伸ばし、硬直した。
「お、俺は後で大丈夫です。二人だと狭くて、宗一さんもお辛いだろうし……」
「白希は細いから全く気にならないよ。一緒に入ってくれた方がリラックスできるというか、疲れがとれる」
しばし無言で見つめ合う。沈黙に耐えられなくなったのは、やはり白希の方だ。
「わ……わかりました。でも隅にいますね」
彼は諦めたように、いそいそと服を脱ぎ始めた。 宗一も続けて服を脱ぎ、浴室に入る。
昨夜と全く同じ光景。互いにお湯をかけ合い、頭を洗った。
「白希、身体を洗おうか?」
「だっ大丈夫です! 自分でできます!」
白希は全身全霊で拒否反応を示した。羞恥心はあって当然なのだが、嫌悪感を抱いてるようには見えない。恐怖とも少し違う。
今以上に距離が縮まることを恐れてるようだ。
スポンジをとってボディソープをつけようとすると、それまで自分の身体を洗っていた白希が前に回った。
「……あの。お背中流しましょうか」
21
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説


淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる