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奇な糸
#11
しおりを挟む宗一は飄々と語ったものの、一瞬だけ激情を秘めた瞳を真岡に向けた。
「今まで何も知らずに過ごしていた自分が歯痒くて仕方ないよ。彼らを信用して、距離を保っていたが故に招いた結果だ。……もっと早くに会いに行けば良かった。それこそ、全身火傷してでも」
思わず背筋がぞくっとする。端麗な人間の冷徹な表情こそ、危険を感じるものはない。
視線を逸らし、シートベルトを締めた。
彼の底知れない恋情が恐ろしいし、彼をそこまで執着させる青年もすごい。
今でこそ宗一の方が過重な愛を向けているが、……もしかしたら白希の方が……先に彼に……。
「……さ、今日は直帰してゆっくり休んでくれ」
宗一は真岡にウィンクし、去り際に手を振った。近くのベンチに置いていた紙袋をとり、マンションのエントランスへ消えていく。
また何か考えてそうだな……。
自由過ぎる上司に呆れるが、さっさと退散するのが吉だ。
真岡は空いた助手席に鞄を起き、車を走らせた。
「白希、ただいま」
「宗一さん! お帰りなさい!」
玄関から上がってきた宗一に気付き、白希は足早に迎え入れた。コートを受け取り、ハンガーにかける。
「お仕事お疲れ様です。あの、勝手に申し訳ないと思ったんですけど……お風呂沸かしたので、先に入りませんか?」
「おや。よくやり方分かったね」
「スマホのおかげですよ。本当に便利ですね」
白希ははにかみ、浴室の扉を開けた。湯温は申し分ない。宗一はジャケットも脱ぎ、にっこり微笑んだ。
「ありがとう。せっかく白希が入れてくれたんだから、先に浸からせてもらおうかな」
「良かった……! どうぞどうぞ!」
白希は嬉しそうに片手で入浴をすすめる。
全く、可愛いにも程がある。
今すぐ抱きたい衝動を堪え、彼の手をとった。
「じゃ、一緒に入ろうか」
「え!」
当然のように提案すると、白希は背筋をぴんと伸ばし、硬直した。
「お、俺は後で大丈夫です。二人だと狭くて、宗一さんもお辛いだろうし……」
「白希は細いから全く気にならないよ。一緒に入ってくれた方がリラックスできるというか、疲れがとれる」
しばし無言で見つめ合う。沈黙に耐えられなくなったのは、やはり白希の方だ。
「わ……わかりました。でも隅にいますね」
彼は諦めたように、いそいそと服を脱ぎ始めた。 宗一も続けて服を脱ぎ、浴室に入る。
昨夜と全く同じ光景。互いにお湯をかけ合い、頭を洗った。
「白希、身体を洗おうか?」
「だっ大丈夫です! 自分でできます!」
白希は全身全霊で拒否反応を示した。羞恥心はあって当然なのだが、嫌悪感を抱いてるようには見えない。恐怖とも少し違う。
今以上に距離が縮まることを恐れてるようだ。
スポンジをとってボディソープをつけようとすると、それまで自分の身体を洗っていた白希が前に回った。
「……あの。お背中流しましょうか」
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