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奇な糸
#5
しおりを挟む彼が作ってくれたスープを完食した時、宗一は目の前で両手を組んだ。
「さて……白希、今日は少し出掛けてもらう予定があるんだけど、大丈夫かな」
「お出掛け? は、はい。何処にですか?」
「たくさんある。十時に真岡がここへ来るから、分からないことは何でも彼に訊くといい」
久しぶりに真岡さんと会えるんだ。少し嬉しくなって頷くと、彼はこちらに手を伸ばし、頬を撫でてきた。
くすぐったくて少し身じろぎしたけど、そのままの体勢で彼を見返す。宗一さんは微笑み、席を立った。
「昨日は羽目を外しちゃったから、今日の朝は軽いボディタッチにしよう。続きは夜ね」
また夜に、昨日みたいなことをするんだろうか。想像したらすごく恥ずかしくなって、何も返せなかった。
スーツに着替え、鞄を持つ宗一さんを玄関まで見送る。
取り残されるのは正直不安だ。でも仕事に行く彼に余計な心配をさせるわけにはいかない。
「じゃあ、行ってきます」
「あ。い、行ってらっしゃい。お気をつけて」
最大限頭を下げ、彼の出発を見守った。
大きな背中が見えなくなるまでドアから身を乗り出していた。あまり近所の人には見られない方がいいだろうから、頃合を見てドアを閉め、鍵をかける。
退院後、自分の様子を知ろうと取材に来る記者もいたらしいけど……皆宗一さんが帰してくれたらしい。警察以外は会わせる気はないと言って、躍起になってる人達から守ってくれた。
感謝してもしきれないな。
洗い終えた食器を取り出し、棚へ戻していく。植物に水をあげたり、テーブルを拭いたり、できる限りの家事は率先して動いた。
ただ洗濯だけは未知だ。スマホで色々調べたけど、人によってこだわりもあるみたいだし……勝手にやらないで、やり方は今度宗一さんに訊いてみよう。
家事ひとつとっても、知識のなさ故苦戦する。
「ちゃんとしてる」ように見せかけた数年間だったけど、
顔を合わせたらすぐにバレると思って、自分から暴露してしまった。
学校へ行ってないとか、働いたことがないとか。正直に打ち明けた時、宗一さんは心の底でどう思っただろう。
情けないけど、どう思われてるかばかり気にしてしまう。
結局外へ出ても弱いままだな。
充電スタンドからスマホを外して、大事に握り締めた。
今はこれで簡単に連絡がとれる。
手紙の存在は、彼の中でもう色褪せてしまっただろうか。
ふう、と息をついた時、インターホンが鳴った。
「白希様。ご無沙汰してます」
「真岡さん! 先日はどうもありがとうございました」
頭を下げると、彼も慌てて頭を下げた。そして周りを見回した後、廊下側へ手を向ける。
「お車を用意してます。ご支度が終わりましたら、お声掛けください」
「ええと……はい!」
よく分からないが、しっかり返事する。支度と言っても戸締り以外にすることもない為、スマホだけ持って外へ出た。
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