熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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奇な糸

#2

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「……はぁ」

お風呂上がりは冷たいレモン水を受け取り、一気に飲み干した。
白希が空になったコップをキッチンへ持っていくと、宗一がちょうど食洗機から食器を取り出していた。
「それもすごいですねぇ」
「ああ、便利な物ばかりだよ。たまに味気ない時もあるけどね」
タオルで手を拭き、宗一は白希の髪を少しだけ持ち上げた。

「まだ良い香りがする」
「ありがとうございます。でも宗一さんは常に良い香りですよ」

お世話ではなく事実だ。髪はもちろん、指先まで華やかな香りがする。
ふと、彼の長い指に目を奪われた。さっきは浴室で、この手に色々されたと……。

うっ、思い出さなきゃ良かった。

また首のあたりが熱くなってきて、それとなく宗一から離れる。うっかり彼の回りのものを温度変化させない為に。

それにしても……。

「宗一さんは……経験がたくさんあるんですか?」
「え? 何の?」
「その~……何と言いますか。え、えっちなことです」

しどろもどろに返すと、彼は可笑しそうに吹き出した。
「急にどうしたの」
「……こんなこと言うのは良くないと思うんですけど。……気持ちよかったんです」
両手を組み、うつむき加減に呟いた。
「やっぱり色々なことを経験されてるんだろうな、というのが一つ。もう一つは、嫌じゃないのかな……って」
「えーと。もしかして、白希の身体を触ること?」
すぐに頷くと、彼は目を眇めた。

「残念だけど、許されるなら一日中白希に触れてたいよ。今だってそう」

唇を掠め取られそうになった。慌てて身を引くと、彼は笑いながら両手を上げた。

「キスはしない。約束は守るよ」
「……っ。どうして、そこまで俺を」

彼の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。彼の瞳にうつる自分は、ひどく弱々しい生き物に見えた。

彼が自分に優しくするのは同情心からかもしれない。家を失い、家族が消えた。行き場のない同郷を放っておけなかったから。

でも分からないことがある。宗一さんは東京で働き出して、村へ帰る機会はほとんどなくなったはずだ。

「……宗一さんは、どうして私の家が火事になってると分かったんですか?」





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